郭貴勲「被爆者援護法」裁判第6回口頭弁論 |
1999年10月1日 4時〜 大阪地方裁判所806号法廷にて
前回の裁判から3ヶ月あまりがたちました。
その間、郭貴勲さんは8月5日に、広島における原水爆禁止世界大会の「原爆被害と日本の戦争責任〜被爆者援護法と在外被爆者」という分科会にパネラーとして参加され、裁判への思いと支援を訴えられました。翌6日と7日には、阪南中央病院労組の戦跡巡りに同行され、ご自身の被爆地を案内したり、大久野島の毒ガス工場跡を訪れたりされました。
市民の会ではみなさんのご協力をいただいて、韓国、アメリカ、ブラジルの被爆者協会と連帯して、「在韓被爆者を始めとするすべての在外被爆者に『被爆者援護法』の適用を求める署名」活動に取り組んできました。
いっぽう、被告はこの間に、これまでの原告の主張に対する総反論を仕上げて裁判所に提出することになっていました。「総反論」ですから、どんな反論がなされるかと期待と緊張で待っていたところ、出てきた反論は、争点をねじ曲げた、まったく「肩すかし」の反論でした。
今日の口頭弁論では、被告の総反論という「第五準備書面」と、それに対する原告側反論の「準備書面(五)」が提出され、原告側からは「証人申請」もなされます。
《被告と原告の主張》
●被告側の総反論=第五準備書面● (国側の総反論) |
◎原告側の反論=準備書面(五) (郭さん、国の総反論に対してまたまた反論) |
【本裁判の争点】 被爆者援護法は、わが国に居住も現在もしていない外国人である原告に適用があるか? 【主張】 適用があるとする原告の主張の論拠にはいずれも理由がないことは主張した通りであるが、以下補足する。 @ 孫振斗最高裁判決は「退去強制により、不法入国した被爆者が短期間しか同法の適用を受けられない場合がありうる」としている。 A法は、それを制定した国家の主権が及ぶ人的・場所的範囲において有効に効力を有するのが原則である。 B「日韓請求権協定」において、韓国政府は在韓被爆者の日本国に対する請求権に関する外交保護権を放棄している。 C被爆者援護法が、戦争被害に対する国家補償法としての性格と同時に社会保障法としての性格という「複合的性格」を有することは、すでに明らかにしたところである。 Dしかし、戦争に対する国家補償法については、戦争は、国の存亡に関わる非常事態であり、国民のすべてが犠牲ないし損害を余儀なくされるのであり、これらの犠牲は、国民の等しく受認すべきものであったから、誰を適用対象とするかは、立法府に広範な裁量権がある。 E被爆者援護法による援護は社会保障的側面を有するところ、外国人に対する生活の保障ないし援助は「当該援助の対象者の属する国家の責任に措いてなされることが現在国際間で基本的に容認されている実情にあると解される」 |
争点は「いったん取得された被爆者援護法上の被爆者たる地位が、外国に出ることによって、当然に失われるか、否か」である。 被告の主張する争点自身が混乱しているし、被告の反論は矛盾に満ちている。 最高裁判決は、日本国が「退去強制により適用を受けられなくなる」と反論したのに対して、「受けられない場合があるとしても、そのことだけで、その間の給付が無意味であったことに帰するものではない」と、国の反論を退けたのであり、適用が受けられなくなるかどうかの判断は下していないし、出国により被爆者たる地位を失うかどうかまでも判断していない。 (こういう原則は間違っているが)被告が、「外国人でも日本人でも被爆者が国外に出れば手帳を失権させている」ことの説明にはならない。 「請求権協定」を根拠に、韓国籍以外の国籍の被爆者も日本を出国すれば手帳を失権されることの説明にはならない。「請求権協定」を根拠に郭さんの権利を否定するのなら、在日韓国人にも被爆者援護法は適用されるべきではないが、在日韓国人は適用されている。被爆者援護法上の権利は「請求権協定」以後に取得された権利である。 被告がその点を明確に認めたことはない。どの準備書面のどの部分で、被爆者援護法のどの部分をどのように捉えて、国家補償法としての性格だといったのかを明らかにせよ。 被爆者援護法は、原爆被害という「特別の犠牲」に対する国家補償法であり、戦争被害一般に対する国家補償法ではない。 また、原告は、立法の不備を問題にしているのではない。被告の被爆者援護法の解釈・適用の誤りを指摘しているのだ。(一般にこのような実情があるかどうかは措くとして)被爆者援護法による援護について被告は、日本人であれ外国人であれ、日本国内にいれば援護し、国外に出れば援護していない。そこに外国人か日本人かの区別はないのだから、この主張は、出国により援護の対象外とすることの説明になっていない。 |
【過誤払い】 辛泳洙さんが韓国にいる間も特別手当の支給を受けていたという事実は確認できなかったが、もしそれが事実ならば、過誤払いであり、返還請求がなされるべきものである。 |
日本での在留許可期間中も韓国に帰国することがある旨を東京都に伝えた上で、特別手当の支給を受けたものであって、これを過誤払いとするなら、法の運用を違法に転換したものである。 |
【被告に釈明を求める】
@争点をねじ曲げることなく、「いったん取得された被爆者援護法上の被爆者たる地位が、外国に出ることによって、当然に失われる」根拠について、明確にせよ。
A被告の主張の中に「わが国に居住も現在もしていない」という語と、「国外に居住、在住しながら」という語があるが、居住・現在・在住の定義とその異同を明らかにせよ。
【被告に認否を求める】
@原告がこれまで主張してきた、援護法の制定過程・内容、援護法と比較される他の法制の内容・運用、米施政下の沖縄における被爆者二法の適用、被告が在韓被爆者を排除してきた歴史、四〇二号通達発出の経緯、居住も現在もしないのに失権しなかった事例について、認否せよ。
A郭さんの日本軍への召集・入営・配置・配属の事実を、被告は「不知」とするが、そのようなことはありえないので、はっきりと認否せよ。
【証人申請】 郭貴勲(原告本人)/森田隆(在ブラジル原爆被爆者協会会長)/倉本寛司(米国原爆被爆者協会名誉会長)/伊東壮(被団協代表理事)/中島竜美(在韓被爆者問題市民会議代表)/田村和之(広島大学教授・行政法専攻)
一〇月一日・第六回口頭弁論・被告は裁判の争点をねじ曲げてきた!
四時、大阪地裁八〇六号法廷で、原告被告双方から第五準備書面が提出された。そこでの主張のポイントは、郭さんの裁判の争点は何かということであった。
被告側は「本裁判の争点は、被爆者援護法が日本に居住も現在もしていない外国人に適用されるか否かである」と主張してきたのに対し、原告側は「争点は、被爆者健康手帳の取得によりいったん取得された被爆者援護法上の被爆者としての権利は、日本を出国することによって失権させられるか否かである。被告は争点をねじまげている」と反論した。
そして、原告が前回主張した「日本に居住も現在もしていない被爆者が被爆者手当の給付を受けていた実例がある」ということに対して、被告側は「それらの例が事実かどうかは確認できなかったが、もし事実であるとすればすべて過誤払いである」と反論してきた。
そこで、原告側は、アメリカ在住被爆者の倉本寛司さんと、ブラジル在住被爆者の森田隆さんを証人として申請した。
森田さんは日本国籍を有する被爆者であるにもかかわらず、日本を出国すると手帳を無効とされ、手当も打ち切られてきた。ところが、現在は、一昨年日本に帰国したさいに受けていた健康管理手当がブラジルに行った後も振り込まれていたからと、その返還を求められている。また、倉本さんは、日本国籍を持つ被爆者でデンバーとカナダに住む被爆者が、日本にいない間も手当が支払われていたとして返還を求められたケースについて、相談にのってきた。
二人の証言によって、日本人被爆者も日本出国により手当を打ち切られていること、日本政府は在外被爆者に対していかに恣意的な対応をしているかを明らかにしようとするものである。