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(2000.10.6 16:00〜 大阪地裁806号法廷)
●この間の裁判をめぐる動き
今年の4月に被告らの訴訟代理人が交代した。交代前の代理人は、「被告の主張はもうない」と言っていたが、5月12日の第11回口頭弁論で、新たにお目見えした代理人が、「主張をする」と言ってきた。
その後、7月5日には、広島高裁で係争中の三菱広島裁判の郭貴勲裁判と同様の主張部分に対して、被告日本政府は、次のような、郭貴勲裁判での主張とは異なる主張をしてきた。
402号通達は、「特別手当受給権は、死亡により失権するほか、同法は日本国内に居住関係を有する被爆者に対して適用されるものであるので、日本国の領域を超えて居住地を移した被爆者には同法の適用がないものと解されるものであり、従ってこの場合にも特別手当は失権の取扱いとなること。」と規定し、原爆医療法及び原爆特別措置法の適用の有無は、日本国内に居住するか否かで、決してきたものである。したがって、右通達に従えば、海外旅行・出張などで短期間出国する者も、日本国内に居住しているのであるから、失権しないことは明らかである。(2000年7月5日の被告準備書面)
そのため、原告弁護団は、本裁判においても、被告代理人が、従前の「日本国内に居住又は現在する者が外国に出ることによって、『被爆者』たる地位が失われる」という主張を、上記の三菱裁判と同様に、「日本に居住する者は短期間の出国では失権しない」と変更してくる可能性が高いと、予測していた。そうしたところ、被告代理人から出された●被告・第九準備書面(全文を資料として添付)は、主張を変更したのか、していないのか、判然としない主張に終始していた。
そこで、原告側は、今回の裁判において、これまで12回の裁判で被告を追いつめてきた点をはっきりさせるために、以下のような「求釈明申立書」を、事前に提出した。
●原告・求釈明申立書(2000年9月22日)
一 被告ら訴訟代理人の交代により、被告らの従前の主張に変わるところがないのかどうか、必ずしも判然としない。例えば、被告ら第九準備書面の第一の表題は、「日本国内に居住も現在もしなくなることにより」と書き出されている。しかし、本文では「居住も現在もしていない被爆者」と書くなどの混乱もあり、争点の正しい把握がなされているのかについても疑念がある。
そこで被告らの主張を確認の上、原告の反論を準備するため、以下の三点について釈明を求める。次々回期日までに、原告の最終準備書面を提出するため、本求釈明に対する釈明は、必ず次回期日(10月6日)までに、書面をもって行われたい。
二 釈明事項
1 本件の主要な争点は何か
原告準備書面(六)、第一の三に整理したとおり、本件の主要な争点を、「出国により被爆者たる地位は失われるか否か」と整理することに異論はないか。(なお、被告第八準備書面は、原告の右主張整理を前提としている)。
2 何によって被爆者たる地位は失われるのか
被告第八準備書面、第一の一記載の「日本国内に居住又は現在する者が外国に出ることによって、『被爆者』たる地位が失われる」との主張は、維持するのか。
3 「被爆者」たる地位はなぜ失われるのか
「被爆者」たる地位が失われる根拠として、従前被告らが主張してきた主権論、すなわち被告第五準備書面、第二の四における「法は、それを制定した国家の主権が及ぶ人的・場所的範囲において効力を有する原則」、被告第七準備書面、第一の一における「法は国家の主権の及ばない外国においては適用されないのが原則とする「原則」の各主張は、撤回するのか。撤回しないのであれば、これら「原則」と被告第九準備書面 第一の一の@記載の非拠出性の社会保障法の原則として主張されている「原則」とはいかなる関係に立つのか、明らかにされたい。 以上
原告からの求釈明に対して、被告は以下のような回答書を提出した。
●被告・求釈明に対する回答書(2000年10月6日)
原告は、平成12年9月21日付け求釈明申立書により「釈明事項」として三事項につき回答を求めているので、被告らは、本書面により原告の「釈明事項」について回答する。
一 釈明事項1について
被告ら第九準備書面第一(一ページ以下)で述べているとおり、本件の主要の争点は、「いったん、 被爆者健康手帳の交付を受けた者が、日本国内に居住も現在もしなくなることにより、被爆者援護法第一条に定める『被爆者』たる地位を失うか。」という点であると認識している。
二 釈明事項2について
被告ら第九準備書面第一(一ページ以下)で述べているとおり、被爆者健康手帳の交付を受けた者は、日本国内に居住も現在もしなくなることにより、被爆者援護法第一条に定める「被爆者」 たる地位を失う。
三 釈明事項3
被告ら第九準備書面第二の一(九ページ)で述べているとおり、被告らは、行政法は特別の定めのない限り、日本国内においてのみ効力を有するとの原則(いわゆる属地主義の原則)を撤回していない。右の原則は、国家の主権に基づく一般原則である。
これに対し、被拠出制の社会保障法の効力が、原則として、それを制定する主体の権限の及ぶ全地域にのみ及ぶのは、社会連帯と相互扶助の理念を基礎とし、国家の構成員の税負担に依拠して成立する非拠出制の社会保障法の性質上、日本国内に居住も現在もしていない者はその適用対象とされないことを根拠とする。
被爆者援護法については、右の属地主義の原則からしても、非拠出制の社会保障法であるという法的性質からしても、日本国内に居住も現在もしない者は適用対象として予定されていないとの結論が導かれる。
被告の主張は、回答書部分において、これまでの主張を変更してきた。
このことを追及した原告側弁護人に対して、被告代理人は「これまでの主張をより正確に表現したまでである」と返答した。
だが、被告の主張に変更があったことは明らかであり、主張が一貫しないことそのものが、被爆者援護法の条文によらない恣意的な行政の結果である。
★2年間闘ってきた郭貴勲裁判も、次回12月22日をもって結審となることが決まった。
原告側弁護団は現在、2年間、合計13回の口頭弁論被告の間に、主張が二転、三転してきたことを明らかにしつつ、被告の矛盾した法論理を総反論する最終準備書面の作成に取りかかっている。
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