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(2008年8月5日 更新)
全面勝訴!判決はこちら 7月31日(木)11 時30分 (広島地裁) メール・FAXのお願い |
在ブラジル原爆被爆者協会と在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会は8月1日、次の要請書を広島県知事に提出しました。 ------------------------------------------------------------- 2008年8月1日 広島県知事 藤田 雄山 殿 在ブラジル原爆被爆者協会会長 森田 隆 在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会代表世話人 田村 和之 要 請 昨日、在ブラジル被爆者被爆者健康手帳交付申請却下処分取消訴訟において広島地方裁判所は、原告の請求を認め、あなたが行った2名の在ブラジル被爆者に対する被爆者健康手帳交付申請却下処分を違法と断じ、これを取り消した。 私たちは、あなたがこの判決に従い、直ちにこの両名に対し被爆者健康手帳を交付することを強く要請する。 この種の裁判で敗訴しても、あなた方は厚生労働省の指示に従い、当然のように控訴するのが、これまでの「ならい」であるが、この悪習を踏襲することは許されない。被爆者健康手帳交付事務は法定受託事務であり、地方自治体が自主的に処理できる事務である。 厚生労働省がなんと言おうが、この件の処理の最終的な責任を負っているのは広島県である。厚生労働省の不当な圧力に屈することなく、このたびの判決に敢然として従うことが求められている。 念のために補足すれば、このような自主的な判断を行うべきことは、広島県が被告であった事件に対する2007年2月6日の最高裁判所判決(在ブラジル被爆者健康管理手当支払請求裁判)が厳しく指摘したことでもある。 以上 |
FAX・メールのお願い 7月31日、在ブラジル被爆者手帳裁判で広島地裁は、 在外被爆者をこれ以上苦しめないでください。 |
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海外からの被爆者手帳申請ができないという、日本政府が譲らないハードルがあります。
そのため、被爆者であるゆえに行政により出されている被爆確認証を持っていても、
病気や高齢で日本に来れず、そのため手帳を取得できず、充分な医療も受けられないで
苦しんでいる人がいます。
この裁判は、そのような被爆者が海外から送った手帳の申請を認めさせる裁判です。
ブラジルの被爆者が2006年7月27日に、弁護士を通して広島地裁に提訴しました。
どうぞご支援をお願いします。
在ブラジル被爆者「手帳」申請却下処分取消請求訴訟の流れ |
提訴 2006年7月27日 広島地裁に提訴(訴状) 第1回口頭弁論 2007年1月11日(木)10時00分 (広島地裁) 2007年3月12日 被爆者である92歳の原告がブラジルで亡くなった。 第2回口頭弁論 2007年3月15日(広島地裁) 第3回口頭弁論 2007年6月7日(木) (広島地裁) 第4回口頭弁論(予定) 2007年8月23日(木)10 時00分 (広島地裁) ※ ※ --------- 判決 2008年7月31日(木)11・30(広島地裁) 全面勝訴 判決文(抜粋) |
訴 状 2006年7月27日 広島地方裁判所 民事部 御 中 原告ら訴訟代理人弁護士 足 立 修 一 同 弁護士 奥 野 修 士 同 弁護士 田 邊 尚 同 弁護士 中 丸 正 三 同 弁護士 二 國 則 昭 同 弁護士 藤 井 裕 在ブラジル被爆者健康手帳申請却下処分取消等請求事件 訴訟物の価額 金 440万円 貼用印紙額 金2万7000円 予納費用額 金1万1000円 当事者の表示 ブラジル連邦共和国リオデジャネイロ州rリオデジャネイロ市○○ 原 告 A ブラジル連邦共和国サンパウロ州マリリア市○○ 原 告 B 〒730‐0004 広島市中区東白島町18番13号 東白島ビル201号 TEL 082‐211‐2441 FAX 082‐211‐3331 (送達場所) 原告ら訴訟代理人 弁護士 足 立 修 一 〒730‐0012 広島市中区上八丁堀8−20 井上ビル3階 TEL 082‐227‐2411 FAX 082‐227‐6699 同 弁護士 二 國 則 昭 同 所 同 弁護士 奥 野 修 士 〒730‐0012 広島市中区上八丁堀8−20 井上ビル3階 TEL 082‐227−3388 FAX 082‐227‐3389 同 弁護士 中 丸 正 三 〒730−0012 広島市中区上八丁堀4番28号 松田ハイツ204号 TEL 082−222−5361 FAX 082−222−5362 同 弁護士 田 邊 尚 〒730−0012 広島市中区上八丁堀4番27号 上八丁堀ビル703号 TEL 082‐223‐0695 FAX 082‐223‐2652 同 弁護士 藤 井 裕 〒100−8977 東京都千代田区霞が関1丁目1番1号 法務省 被 告 日 本 国 代表者法務大臣 杉 浦 正 健 〒730-8511 広島市中区基町10番52号 広島県庁 被 告 広 島 県 代表者広島県知事 藤 田 雄 山 処分行政庁 広島県知事 藤 田 雄 山 請 求 の 趣 旨 1 原告Aに対し、広島県知事のなした2006年4月27日付け被爆者健康手帳交付申請却下処分を取り消す。 2 広島県知事は、原告Aに対し被爆者健康手帳を交付せよ。 3 被告日本国及び被告広島県は、原告Aに対し、各自金220万円及びこれに対する2006年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 Cに対し、広島県知事のなした2006年4月27日付け被爆者健康手帳交付申請却下処分を取り消す。 5 被告日本国及び被告広島県は、原告Bに対し、各自金220万円及びこれに対する2006年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 訴訟費用は被告らの負担とする。 請 求 の 原 因 第1 本件訴訟の概要 本件訴訟は、ブラジル連邦共和国在住の被爆者1名とブラジル連邦共和国在住の被爆者の葬儀を行い、相続した子ども1名の合わせて2名の原告が、ブラジル連邦共和国に居住したまま被爆者援護法の適用を求めて被爆者健康手帳の交付申請手続をし、その申請を受けた広島県知事がその各申請を却下したことに対し、その行政処分の取り消しを求め、また、生存する被爆者については被爆者健康手帳の交付を義務づけることを求めるとともに、被告らに対し損害賠償を求めるものである。 原告Aと原告Bの父であるCの両名は、いずれも原子爆弾に被弾した被爆者であるが、原告Aは1945年8月6日に広島で原爆に被爆し、Cは、1945年8月9日に長崎で被爆している。 即ち、原告A及びCは、いずれも広島または長崎で被爆した被爆者であり、原爆2法及び被爆者援護法(以下これら3法を「被爆者法」という)の適用を受け得る立場にある。しかしながら、1974年7月22日に厚生省から発せられた402号通達に象徴される、戦後の日本政府の在外被爆者の排除の政策により、原告A及びCら在外被爆者は不当にも上記被爆者法の適用から除外され、原告Aや原告Bの父Cらは、これまで日本に渡航することができず、現在まで被爆者健康手帳を取得することができなかった。その結果、上記被爆者法の適用から全く除外されてきた。 ところが、後記のとおり2001年6月以降、上記被爆者法の適用において、滞日を要求してきた従前の日本政府の対応が違法である旨の判決が次々と示されるに至り、その後日本政府もその政策を改めざるを得ない状況となっていった。 そこで、原告Aは、ブラジル連邦共和国において広島県知事から被爆確認証の交付を受け、原告Bの父Cは、ブラジル連邦共和国において長崎市長から被爆確認証の交付を受け、いずれも広島県知事に対し、代理人を通じて被爆者健康手帳の交付申請を行った。しかしながら、広島県知事は、あくまでも日本に現在する状態での申請手続を求める日本政府の政策に従い、原告A及びCの被爆者健康手帳交付申請をいずれも却下する処分を下した。 国籍条項を置かず広く被爆者の援護を目的とする上記被爆者法の趣旨からして、同法に定められた被爆者健康手帳の効力や健康管理手当の支給を被爆者が日本から出国したときに、失権させることは違法であり、また、健康管理手当等の手当の支給申請を日本国外からの申請であることを理由に却下することは違法であることが、後記のとおり近年の一連の判決において確定されているところである。 本件訴訟は、被爆者健康手帳の交付申請を当該被爆者が日本国外に居住するままの状態で行ったことに対し、却下した各行政処分の取り消しを求めるものであり、且つ違憲・違法であることを十分認識すべき状況の上で、広島県知事が、厚生労働省と協議の上、共同して判断した結果、本件却下処分をなしたことに対し、被告広島県と被告国に対して、国家賠償法により損害賠償を求めるものである。 第2 本件に関連する一連の在外被爆者裁判についての判決 1 在外被爆者裁判における被爆者の勝訴 (1) 一連の在外被爆者裁判 一連の在外被爆者裁判とは、A郭貴勲裁判(@大阪地裁2001年6月1日判決、判例時報1792号31頁、A大阪高裁2002年12月5日判決・確定、判例タイムズ1111号194頁)、B李康寧裁判(B長崎地裁2001年12月26日判決、判例タイムズ1113号134頁、C福岡高裁2003年2月7日判決・上告、判例タイムズ1119号118頁、D最高裁2006年6月13日判決)、C広瀬方人裁判(E長崎地裁2003年3月19日判決・F福岡高裁2004年2月27日判決・G最高裁2006年6月13日判決)、D李在錫裁判(H大阪地裁2003年3月20日判決・確定)、E在ブラジル被爆者健康管理手当手当請求訴訟(I広島地裁2004年10月16日判決、J広島高裁2006年2月8日判決・上告中)、F崔季K健康管理手当裁判(K長崎地裁2004年9月28日判決・L2005年9月26日判決・確定)、G崔季K葬祭料裁判(M長崎地裁2005年3月8日判決、N福岡高裁2005年9月26日判決控訴審・確定)、H在米被爆者手当申請却下処分取消訴訟(O広島地裁2005年5月10日判決・控訴後、取下により確定)、I崔季K健康管理手当・二次裁判(P長崎地裁2005年12月20日判決・控訴中)、J大阪在韓被爆者葬祭料裁判(Q大阪地裁2006年2月21日判決・確定)である。 また、国賠請求によって被爆者の放置の違法性を問うた事件として、K三菱元徴用工被爆者補償請求訴訟(R広島地裁1999年3月25日判決、訟務月報47巻7号1677頁、S広島高裁2005年1月19日判決・判例時報1903号23頁・上告中)ある。 Cの広瀬方人裁判を除き、原告はすべて日本国内に居住していない被爆者(以下で「在外被爆者」という)であり、また、Eの在ブラジル被爆者、Hの在アメリカ被爆者の原告を除く原告らはいずれも大韓民国在住の被爆者(以下「在韓被爆者」という)である。 (2) 被爆者健康手帳を取得した在外被爆者は来日後日本から出国しても被爆者であるとの判断の確立 A、B、D、Eの原告らはいずれも日本に来て日本国内において、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(1994年法律117号。以下「被爆者援護法」という。)に基づき、被爆者健康手帳の交付と手当の支給を申請し、大阪府知事、長崎市長、広島県知事、広島市長などから被爆者健康手帳を交付され、また、手当の支給決定を得て、手当を受給していたが、日本からの帰国(出国)と同時に同法上の被爆者たる地位と手当受給権を失ったとされ、手当の支給を打ち切られた。そこで、このような取扱いは同法の趣旨に反する違法のものであるとして被爆者らが提訴し、前記@ないしJの判決において、いずれも原告らの手当の打ち切りは違法であるとの主張が認められた。Cの広瀬裁判の原告は日本国に居住する者であるが、出国に伴い同法に基づく健康管理手当の支給を打ち切られたため、上記のBの在韓被爆者が提起した訴えと同趣旨の訴えを提起し、E判決により出国により手当受給権は消滅しない、過誤払いとされた部分の返還義務がないとして勝訴したが、F判決により、未払手当発生後5年を経過した部分につき時効消滅したとして敗訴し、G判決でも、F判決と同様の結論となった。 Eの在ブラジル被爆者健康管理手当請求訴訟では、A郭貴勲裁判のAの大阪高裁判決後、政令・省令の改正により厚生労働省が時効満了前の未払手当を任意に支払い、また、将来に発生する手当についても、ブラジル連邦共和国内に開設された原告らの名義の預金口座に送金する取扱いをすることになったため、原告10名のうち7名は訴えを取り下げ、時効が問題とされた原告3名について、訴訟を維持した。しかし、支払期から5年の時効期間が経過したとして、手当請求権は時効消滅したとする判決がなされたため、原告らは控訴して係争し、J判決で勝訴した。現在上告中である。 (3) 一連の判決は在外被爆者に対する出国による権利剥奪を違法とした 被爆者援護法は、その前身の(旧)原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(1957年法律41号、以下「原爆医療法」という)、及び(旧)原子爆弾被爆者に対する特別措置法(1968年法律53号、以下「原爆特別措置法」という)と同様に、「被爆者」の要件として日本国籍や国内居住を規定していない(1条)。ところが、厚生省(当時)は、1974年7月22日、衛発402号公衆衛生局長通知(以下「402号通達」という)において、原爆特別措置法は「日本国内に居住関係を有する被爆者に対し適用されるものであるので、日本国の領域を越えて居住地を移した被爆者には同法は適用がないものと解される」とし、被爆者が日本国から出国したときは、日本国籍の有無にかかわらず、被爆者たる地位を失い、手当受給権は失権すると取り扱うよう各地方自治体に指示した。 これは、日本で被爆のための治療を受けるため密入国し、被爆者健康手帳の交付の申請をした孫振斗氏の手帳交付申請却下処分取消訴訟で、同じ年の1974年3月30日、第一審福岡地裁が福岡県知事の主張を排斥し孫氏に対して原爆医療法の適用を認める判決を下した直後の通達であった。要は被爆者法の適用が、それまでは日本に在住していなければ認められなかったものが、とにかく日本で手続きをすれば手帳の交付を受けることができる、という判断が示されたのである。当然のことながら、海外から多くの被爆者が来日して手続きをとることが予想された。402号通達は、これに対する日本政府の対策であり、日本に来て被爆者健康手帳を取得しても、帰国するときには無効になる、ということを知らしめる目的があった。 在外被爆者が医療を受けることを目的として渡日し、病院に1ヶ月以上入院している間に、同法2条に基づき、被爆者健康手帳の交付を申請してその交付を受け、また、手当支給を申請して認められれば、申請日の属する月の翌日より手当を受給することができる。ところが上記402号通達により、同人が帰国(出国)すれば、直ちに被爆者健康手帳の失権の扱いを受け、被爆者法上の被爆者の地位を失い(被爆者健康手帳は無効となる)、また、手当受給権も消滅したとされ、手当の支給は打ちきられる。当然来日して手帳を取得しようとする被爆者は躊躇するであろう。402号通達はその効果を企図したとしか考えられない。このような行政実務における取扱いは、被爆者援護法が制定された後も維持され、30年近くの長い間にわたり行われていた。以上のような原爆医療法、原爆特別措置法、被爆者援護法の402号通達に基づく解釈運用は違法であるとして、提起されたのが上記の一連の在外被爆者裁判である。 これらの裁判では、被爆者が日本国から出国したこと(わが国に居住も現在もしなくなること)により、法律上の被爆者たる地位と手当受給権を失うのかどうかが争われ、@からE、Hの判決は、いずれも被爆者が日本に居住も現在もしなくなったからといって、被爆者たる法的地位や手当受給権は失われないと判示した。こうして、一連の在外被爆者裁判は、訴えを提起した在外被爆者の全面的な勝訴となった。 2 在外被爆者の所持する被爆者健康手帳の有効化、及び在外被爆者への手当の支払い A郭貴勲裁判大阪高裁判決(A)に対して、同裁判の被告国および被告大阪府は上告を断念し、この判決は確定した。これに伴い、2003年3月1日、被爆者援護法施行令および被爆者援護法施行規則が改正され(政令14号、厚生労働省令16号)、被爆者健康手帳はこれを所持する被爆者が国外に居住していても有効であり、また、手当受給権は出国して国外に居住することになっても消滅しないことを前提とする諸条項が規定された。 これにより、新たに交付される被爆者健康手帳が出国によって無効とされなくなっただけでなく、2003年3月1日より以前に被爆者健康手帳の交付を受けた後出国したために無効とされていた被爆者健康手帳が、有効なものとして取り扱われることとなり、また、手当については、「日本において手当の支給認定を受けた者が出国した場合及び日本において手当の支給申請をした者が出国した後に手当の支給認定を受けた場合であっても、当該者に対し手当を支給する」(同年3月1日健発0301002号厚生労働省健康局長通知)とともに、過去に手当を受給していたが、出国に伴い支給を打ちきられていた者については、未支給分の手当を過去に遡って支払うこととした(同年2月17日厚生労働省健康局「在外被爆者への手当支給についてQ&A」)。 前述の被爆者援護法施行令と同施行規則の改正により、被爆者健康手帳を所持する在外被爆者には、氏名、居住地の届出・変更の届出の義務(施行令5条1項、施行規則7条2項)、被爆者健康手帳の返還の義務(施行規則8条)などが課され、また、手当を受給する在外被爆者には、氏名や居住地の変更の届出の義務(施行規則34条・35条3項など)、死亡の届出(施行規則41条など)、現況の届出の義務(施行規則41条の2など)などが課されることになった。これらの義務は、従前の国内居住地の都道府県知事・広島市長・長崎市長に対して履行すべきものとされた。 3 いったん被爆者健康手帳を取得した在外被爆者は来日しなくとも被爆者としての権利を行使できることになった (1) 前記A郭貴勲裁判大阪高裁判決を受け入れた国・厚生労働省は、2003 年3月以降、いったん日本に入国して、被爆者健康手帳の交付を受け、健康管理手当の受給権が発生した在外被爆者については、その者が日本国外に出国しても、被爆者たる法律上の地位を失わないとし、健康管理手当を受給し続けられるようになった。これは、被爆者援護行政史の上で文字通り画期的なことであった。 しかし、様々な事情により来日できない被爆者については、日本に来なければ被爆者としての権利を行使できないとする来日要件に阻まれて、一連の在外被爆者施策の進展の中でも、その援護措置の埒外に置かれてきた。被爆者健康手帳の交付および手当支給の申請は、日本国内の居住地からでなければ行うことができないという従前からの取扱いは改められなかったのである。 平均年齢が70歳を超えた被爆者が、アメリカ西海岸からであれば、12時間、南米からであれば丸1日以上の航空機での長旅をして渡日しなければ、被爆者健康手帳の交付や手当の支給を申請できない。このような長旅に耐えられない被爆者が少なからずいることは容易に理解できるところである。 (2) 日本国外からの手当申請却下処分取消訴訟での勝訴 こうした事態に対し、まず、被爆者健康手帳の交付を受けていることを前提として、健康管理手当などの手当の申請を日本国外から行ったことにする申請却下処分が訴訟で争われた事案がある。これらが、崔季K裁判(FK健康管理手当の日本国外からの申請の可否、GM葬祭料の日本国外からの申請の可否)と、在米被爆者手当申請却下処分取消訴訟(HI健康管理手当、保健手当、葬祭料の日本国外からの申請の可否)の各訴訟である。 これらの訴訟で、長崎地裁、広島地裁は、それぞれの第一審判決において、在外被爆者の日本国外から手当等の申請を却下したのは、違法であるとし、却下処分を取り消す判決を行い、いずれの原告も勝訴をすることができた。しかし、この一審判決に対しては、それぞれの被告は不当にも上級審に控訴したが、福岡高裁は、2005年9月26日、2件の崔季K裁判で、FLとGNの判決により、健康管理手当及び葬祭料の日本国外からの申請権を認め、却下処分を違法とし、この判断に対して、長崎市が上告しなかったため、原告側の勝訴で確定した。よって、これらと同様の争点で争っていた、H在米被爆者手当申請却下処分取消訴訟及びI大阪在韓被爆者葬祭料裁判において、原告らの請求が大部分認められるところとなった。 (3) B李康寧裁判のC福岡高裁判決は、原爆三法(原爆医療法、原爆特別措置 法、被爆者健康手帳援護法)の趣旨における人道的見地について次のように指摘している。 「原爆三法は、社会保障法と国家補償法という2つの法的性格を併せ有する法律であって、人道的な見地に立って、公費負担による被爆者救済を図ることを目的としたものである。このような原爆三法の依って立つ人道的見地という立場を考慮すれば、少なくとも狭義の被爆者(被爆者健康手帳を所持する被爆者)に対して一定額の金銭給付である健康管理手当の受給権を認めない解釈は、在外被爆者をして手当受給のために本来の居住地を離れて生活することを強いるものであり、相当でないといわざるを得ない。」「原爆三法の国家補償法的な性格や被爆者のおかれている深刻な健康被害の実情に鑑みると、人道的な見地から少なくとも狭義の在外被爆者に対しては救済を図るべきであると考える。」 以上の判示は、もちろん李康寧裁判(出国に伴う手当の打ち切りの当否が争点である)に即してのものであり、従って判決においては「少なくとも狭義の被爆者」という表現を用いている。しかし、原爆三法は、社会保障法と国家補償法という2つの法的性格を併せ有する法律であって、人道的な見地に立って、公費負担による被爆者救済を図るという趣旨は、被爆者に対する援護について妥当するものである。よって、現実に原爆に被爆した者である限り、特に本件原告AとCは、被爆の事実を認定する被爆確認証の交付を受けているのであるから、被爆者健康手帳の交付の有無にかかわらず、前記の趣旨は妥当し、被爆者健康手帳の交付における手続においても同様と見るべきであり、上記判示は本件においても妥当するものである。 4 本裁判で原告らが求めるもの 本裁判は、原告A及び原告Bの父Cにつき、在外被爆者は来日しなければ被爆者健康手帳の交付申請をなしえないのかという点について、前記の一連の在外被爆者裁判においては争われていない問題についての新たな判断を求めるものである。 原告AとCは、被爆確認証を取得し、被爆した事実が確認された被爆者である。それにもかかわらず、日本国外に居住地があるという理由だけで、被爆者援護法に基づく援護措置を受けるための申請行為が一切認められていない。こうした措置は、前記の一連の在外被爆者裁判において違法とされた被爆者援護行政が、未だに改められることなく継続されているものであり、不当極まりない。 第3 原告らの個別事情について 1 原告らが被爆した事実について (1) 原告Aが原爆により被爆した事実 原告A(以下、原告Aという)は、1915年(大正4年)5月31日、広島市において出生した。 原告Aは、1945年8月の被爆当時,広島女子高等師範学校に勤務し,英語を教え、寄宿舎の舎監も兼務していた。 原告Aは、同年8月6日午前8時15分、広島女子高等師範学校の寄宿舎にいたところ、原爆が投下されて被爆した。 その後、原告Aは、ひどい打撲傷を負い,木切れが腰のあたりに刺さり,相当深い傷を受け,衣服が血まみれになったが、同校生徒の救護にあたり、吉島飛行場に避難したが広島市内に滞在した。 (2) Cが原爆により被爆した事実 Cは、1910年3月12日、長崎市において出生した。 Cは、1945年8月の被爆当時,三菱重工業株式会社に勤務し、工場で働いていた。 Cは、同年8月9日午前11時2分、長崎市平戸小屋町の三菱電機株式会社で勤務中に、原爆が投下されて被爆した。被爆の瞬間、光と同時に一時失明し,音響によって,聴覚を失い,また,黒煙により呼吸困難をきたし,爆風による家屋崩壊やガラスの破片による全身負傷した。Cは、黒焼,火災の中を累積した死体をくぐり,附近の草原空地に避難した。子どもと共に,長崎市内稲佐小学校へ8月15日まで、一時避難した。 2 被爆確認証の取得 (1) 原告Aについて 原告Aは、日本の支援者を通じて、被爆者健康手帳の申請を行い、日本の支援者が示す証拠によって、広島県知事において、原告Aが被爆した事実を確認した。 その後、同原告は、広島県知事から、2004年3月10日付の被爆確認証(番号1)を郵送の方法により交付を受けた。 この被爆確認証には、同原告の居住地、連絡先、氏名、生年月日が記載され、さらに、「被爆時の年齢 満30歳」、「被爆の状況 直接被爆 被爆場所 広島市千田町 2.0km」とあり、「上記のとおり、被爆の状況を確認します。」と記載されている。 (2) Cについて Cは、息子である原告Bが、日本に行き、被爆者健康手帳の申請を行った際に、同人の示した証拠によって、長崎県知事において、Bが被爆した事実を確認した。 その後、同原告は、長崎県知事から、2004年4月6日付の被爆確認証(番号1)を郵送の方法により交付を受けた。 この被爆確認証には、同原告の居住地、連絡先、氏名、生年月日が記載され、さらに、「被爆時の年齢 満30歳」、「被爆の状況 直接被爆 被爆場所 長崎市稲佐町3丁目138番地 1.8km」とあり、「上記のとおり、被爆の状況を確認します。」と記載されている。 また、これらの被爆確認証には、「この確認証は、あなたが将来、日本に渡航した際に、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(平成6年法律第117号)第2条に基づく被爆者健康手帳の円滑な交付に役立てるためのものですので、大切に保管してください。」と記載されている。 このように被爆確認証は、被爆者援護法1条の「被爆者」として実体要件の存在を確認し、当該被爆者が来日さえすれば、直ちに被爆者健康手帳の交付を可能とするものである。 3 被爆者健康手帳の交付申請を行った経緯と却下決定 (1) 原告A及びCは、2006年3月31日、原告ら代理人足立修一 を代理人として、同原告が被爆者援護法1条の「被爆者」たる実体要件を備えていることから、広島県知事あての被爆者健康手帳交付申請書に被爆確認証を添付し、原告ら代理人足立修一と「在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会」の世話人である田村和之と豊永恵三郎が広島県庁に持参して申請を行った。 (2) ところが、広島県知事は、2006年4月27日付で、原告らの被爆者健 康手帳交付申請に対する却下処分を行い、これを原告らに対して通知し、原告らは、同通知を同年5月7日ころ受領した。 これらの通知書には、「あなたは、現在、ブラジル連邦共和国・・・・・に居住しておられ、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第2条第1項の規定に該当しません。」と記載されていた。 なお、同行政処分の行政庁である広島県知事は、被告広島県に所属している。 第4 原告Bによる葬祭の実施と相続について 原告Bは、Cが2006年4月17日に死亡したため、葬儀を執り行った。また、原告大平は、Cを相続した。相続人は、原告大平以外にいない。 原告Bは、Cが被爆者健康手帳の交付を受けていれば、葬祭料の支給請求をなし得えたものであり、本件を訴えをなすにつき法律上の利益を有するものである。 第5 原告Aらに対する違法な申請却下処分 1 広島県知事が原告Aらの申請を却下した根拠について 原告Aらに対する前記却下通知によると、却下の理由は、「あなたは、現在、ブラジル連邦共和国……に居住しておられ、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律第2条第1項の規定に該当しません。」とされている。 2 原告Aらは被爆者健康手帳が交付されるべき実体要件を充足している (1) 前述のように、原告Aは、被爆確認証が交付された被爆者である。 この被爆確認証には、原告Aの氏名、「被爆時の年齢 満22歳」、「被爆の状況 直接被爆 被爆場所 広島市南観音町 3.5km」、「上記のとおり、被爆の状況を確認します。」と記載されている。 これは、原告Aらが、「原子爆弾が投下された際当時の広島市若しくは長崎市の区域内又は政令で定めるこれらに隣接する区域内に在った者 」(被爆者援護法1条1号)という同法の「被爆者」となるための実体要件を充足することを確認するものである。 (2) 被爆者援護法1条各号に規定された「被爆者」として同法の援護を受ける ためには、被爆者健康手帳の交付を受けることが必要である(同条柱書き後段)。同法2条はその交付の手続を定めており、その第1項には被爆者健康手帳の交付申請先は「その居住地(居住地を有しないときは、その現在地とする。)の都道府県知事」であると、第2項には都道府県知事が被爆者健康手帳の交付権限を有する行政庁である旨が規定されている。 (3) 被爆者援護法6条は、「国は、被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉の 向上を図るため、都道府県並びに広島市及び長崎市と連携を図りながら、被爆者に対する援護を総合的に実施するものとする。」と国の責務を規定する。同法によれば、具体的には、被爆者の健康管理は都道府県知事が行い(7〜9条)、医療の給付とその関連の事務(10条〜16条)、医療費の支給(17条)および一般疾病医療費の支給(18条)は厚生労働大臣が、各種の手当等の支給は都道府県知事(第3章第4節の諸規定)が行う。そして、同法51条の2は、「この法律(第3章第5節、第6章及び第48条を除く。)の規定により都道府県並びに広島市及び長崎市が処理することとされている事務は、地方自治法第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務とする。」と定める。したがって、前記の都道府県知事の事務は、「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」(地方自治法2条9項1号)である。手当等の支給及びその他都道府県知事が行う事務の処理に要する費用は国が全額を負担する(43条、同法施行令20条。ただし、介護手当に関しては10分の8または2分の1を国が負担する。)。 以上の諸規定を総合勘案すると、被爆者援護法は、国を被爆者援護事務の本来の責任主体・実施主体とし、都道府県知事を健康管理や手当等の支給事務の担当者としていると解することができる。そうだとすれば、同法2条が被爆者健康手帳の申請先と交付行政庁を都道府県知事としたのは、都道府県知事と厚生労働大臣との間における事務分配として定めたものであるということができる。 以上のような仕組みがとられたのは、被爆者援護は本来国が責任を持って実施すべきものであるが、日本国内においてこれを円滑に実施するためには、医療の給付などを除き、都道府県および広島市、長崎市を通じて、各種の援護策を実施するのが望ましいと考えられたからである。 したがって、被爆者健康手帳の交付の申請先を当該被爆者の「居住地(居住地を有しないときは、その現在地とする。)の都道府県知事」とする被爆者援護法2条1項は、現に日本国内に居住している被爆者に対する管轄を定めるという手続的・技術的な観点から定められたものであるということができる。この規定は、原告Aのような被爆者の実体要件を満たしている者の、被爆者としての権利を制限ないし剥奪するものではなく、また、これをそのような意味を有するものと解釈してはならない。 また、児童手当法4条は『日本国内に住所を有するとき』を支給要件と定め、あるいは、児童扶養手当法4条2項は『日本国内に住所を有しないとき』を不支給要件と定める(特別児童扶養手当等の支給に関する法律3条3項・4項も同じ)。このように、日本国内の居住地を支給(不支給)要件あるいは受給権の消滅要件とするときは、法律で明文規定をおくのが通例である。明文規定のない被爆者援護法において、厚生労働省の解釈のように国内の居住地・現在地が実体的な要件であるとする解釈をとることはできないのである。 (4) 以上のように解することが、被爆者援護法の趣旨・目的に適う。 被爆者援護法は単なる社会保障立法ではなく、制度の根底に国家補償的配慮を有する人道的目的の法律(孫振斗裁判・最高裁第一小法廷1978年3月30日判決)であって、国が主体となって広く被爆者を救済・援護することを目的とする法律である。 被爆者援護法の前文には、「広島市及び長崎市に投下された原子爆弾という比類のない破壊兵器は、幾多の尊い生命を一瞬にして奪ったのみならず、たとい一命をとりとめた被爆者にも、生涯いやすことのできない傷と後遺症を残し、不安の中での生活をもたらした。このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るため」、被爆後50年を機会に、「国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため、この法律を制定する。」と定められている。このような立法経緯や同法の目的に照らせば、被爆者援護法は、社会保障の趣旨からだけでなく、国家補償の趣旨からも原爆による健康被害に苦しむ被爆者を広く救済することを目的にしている。そうだとすれば、被爆者援護法が日本国内に居住している被爆者だけを救済・援護の対象とし、国外に居住する被爆者をその対象から除外していると解することは、同法の趣旨・目的からみて、到底受けいれがたいものであるというほかない。 (5) 特に、2002年(平成14年)12月18日、坂口力厚生労働大臣(当時)は、郭貴勲裁判での大阪高裁判決(A)に対して上告せずに、判決の結論を受けいれた。これは、被爆者援護法の対象となる日本国外の被爆者が存在することが公権解釈として確認されたことを意味する。この時点で、本来は、日本国外に存在する法1条1項各号の被爆者としての実体要件を満たす者が、日本国外から被爆者健康手帳の交付申請を行う手続を整備する必要があった。ところが、厚生労働省は、かかる手続上の整備を行わずに、在外被爆者に対し、日本に来日しない限り被爆者健康手帳の交付申請をなしえないとする運用を継続した。このため、かかる運用によって、本来的に法1条の「被爆者」として実体的に援護の対象となる被爆者が日本に渡航できない場合には、日本に居住し、または、日本に渡航可能な在外被爆者と比較して、日本に渡航できないという理由のみによって、法1条の「被爆者」となるために必要な被爆者健康手帳の交付が受けられないという不合理な差別を受ける結果となっている。 これは、憲法14条1項が禁じる不合理な差別的取り扱いであり、上記のような、厚生労働省の、被爆者援護法2条1項についての日本国外からの被爆者健康手帳交付申請をなしえないとする解釈を前提とする申請却下処分は違憲無効というべきである。 (6) よって、原告Aらが日本国外から被爆者健康手帳申請について、同人がブラジル連邦共和国に居住していることを理由に、被爆者援護法2条1項に該当しないとして、却下処分を行ったのは違憲無効であり、且つ被爆者援護法の趣旨に反する違法な処分というべきであり、取消しを免れない。 第6 原告Aに対する被爆者健康手帳の交付について 前述のように、原告Aに対する本件却下処分は取り消されるべきものであって、原告Aは、本来被爆者健康手帳の交付を受けるべき立場にある(行政事件訴訟法37条の2)。 広島県知事に対する被爆者健康手帳の交付を命じる義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときになし得るものとされ、損害の回復の困難の程度を考慮するとされる。 そして、被爆者援護法の手当の趣旨について、旧厚生省は特別措置法が制定されたときの通達(1968年9月2日、発衛156号、事務次官通達)で次のように説明している。 「(特別措置)法による諸手当は、特別の状態にある被爆者に対し、その生活の安定を図る等のため支給されるものである」 そして、この「特別の状態」及び「特別措置法」の趣旨については、同通達の第一の部分で、つぎのように説明されている。 「原子爆弾の傷害作用の影響を受けた者の中には、……今日においても、生活能力が劣っている者あるいはいわゆる原爆症のため、一般国民とは異なる特別の支出を余儀なくされている者等特別な状態におかれている者が数多くあることにかんがみ、これらの特別の状態におかれている被爆者に対し、その特別の需要を満たして生活の安定を図り……」とある。 ここから、被爆者援護法の手当については、毎月、当該被爆者の生活の安定を図るために支給されることに意味があるものであることが明確にされており、後にまとめて支給されればよいというものではないのである。 本件では、原告Aは、爆心地から2.0キロ地点での被爆者であり保健手当を確実に受給しうる地位にあるほか、健康管理手当の受給を受けうる障害を有しているところ、被爆者健康手帳の交付がなければ、これら手当の申請もなしえないとされているから、高齢の原告Aについては、一刻も早く被爆者健康手帳の交付がなされなければ、本来なら毎月受給できるはずの手当の受給をなしえないことになり、回復困難である重大な損害をもたらすことになるのである。 よって、広島県知事は、原告Aに対し、被爆者健康手帳を交付すべき義務がある。 第7 被告らに対する損害賠償請求 1 被爆者援護法の趣旨 前述したように、被爆者法の本来の趣旨については、前記の一連の在外被爆者裁判における判決において繰り返し指摘されているところである。 即ち、「原爆三法は、社会保障法と国家補償法という2つの法的性格を併せ有する法律であって、人道的な見地に立って、公費負担による被爆者救済を図ることを目的としたものである。」として、人道的見地から法を解釈し、被爆者法の在外被爆者への適用を肯定してきているのである。とりわけ、前記郭貴勲裁判の大阪高裁判決を厚生労働省が受け入れ、同判決が確定し、同省が悪名高き402号通達を改定したことの意味は大きい。 要は、前記の一連の判決は、被爆者法の趣旨は、在外被爆者が法の適用を求めるに当たって、必ずしも日本に滞在しなくとも可能である、という当然のことを肯定し、この趣旨に沿って日本政府も過去の被爆者行政を改めたのである。 この被爆者法の趣旨からすれば、法の定める実質的要件が充足されている以上、被爆者健康手帳の交付においても、そして健康管理手当の支給においても、法に従った手続きがなされなければならない。少なくとも、「日本に在住しない」という理由のみで申請を却下することは断じて許されてはならない。 2 広島三菱重工元徴用工被爆者訴訟の広島高裁判決(KS)の意義 2005年1月19日、広島高裁は、40名の広島三菱重工元徴用工被爆者を控訴人とする訴訟(平成11年(ネ)第206号事件判決)において、次のとおりの判断を示し、国に対し賠償を命ずる画期的判決を下した。 「被爆者法の定めを逸脱して違法と解される402号通達とこれに従った取扱いのために申請が遅れ、その間に高齢化も加わって、やむを得ない理由により来日が困難になってしまった在外被爆者について、現在、来日しないことを理由に被控訴人国が被爆者援護法による救済を否定することは著しく信義に悖るものというべきである。」「病気その他のやむを得ない理由で来日が困難な在外被爆者に対して、来日しないことを理由に上記の各申請を受理せず又は却下し、あるいは来日するまで処分しないというようなことは、国籍要件を設けずに、広く外国人被爆者に対しても救済を認めようとる被爆者援護法の趣旨、目的に反し、また、やむを得ない理由で来日することが困難な在外被爆者に対する不合理な差別として違法というべきである。」「402号通達は、在外被爆者からの被爆者健康手帳の交付や、各種手当の支給に係る申請が増大することを予測した上で、そのことへの対策として、被爆者健康手帳の交付を受けても出国すれば失権し、各種手当も受けられないとの解釈を示し、これに従った行政実務の取扱いを徹底して、当事者である在外被爆者に対して、被爆者健康手帳の交付等を受けることの意義が極めて限定されたものにとどまることを認識させる意図のもとに発出されたものであると認めることができる。」 この判決において明確に指摘されているように、被告国のこれまでの在外被爆者に関する行政の基本的態度は、法の趣旨に反して、意図的に在外被爆者を被爆者法による援助の埒外に置こうとしてきた。そしてこうした基本的な姿勢は、上記広島高裁によって厳しく断罪されたのである。にもかかわらず、被告国は、それに全く反する形で従前と同様の違法な対応をとり続けたのである。その責任は極めて重いといわざるを得ない。 3 被告国及び広島県知事がとるべき措置 広島県知事は原告Aらの申請に対し、「ブラジル連邦共和国・・・・に居住しており被爆者援護法2条1項に該当しない」との理由で却下した。要は、前記の一連の判決において違法であると繰り返し指摘された、「居住要件」を理由に法の適用をしないという行政を、敢えて繰り返しているのである。しかもそうした扱いが援護法の趣旨に反するということを熟知した上である。 本来は、被告国は、前記の郭貴勲裁判の大阪高裁判決確定の後の、2003年3月1日、402号通達を改めた際に、法の趣旨に反する「居住要件による法の不適用」という実務を改めるべく、政令・省令において明確に整備すべきであった。にもかかわらず、被告国はこうした措置をとることなく、逆に本件の如き被爆者健康手帳の交付においても、あくまでも「日本における居住」を要件とするとの姿勢を改めず、しかもその見解に基づく措置を広島県知事に対し指示してきたのである。 そして、広島県知事は、本来法の趣旨に沿った措置をとるべきであるにもかかわらず、被告国(厚生労働省)の指示に安易に従い、原告らの申請を不当にも却下したのである。 4 被告らの不法行為(国家賠償責任) 以上のとおり、広島県知事は、本件各申請却下処分につき、それが明白に法の趣旨に反するものであることを十分認識しながら、敢えて違法な行政処分をなしたものである。 即ち、被告国と被告広島県は、原告A及びCに対し、それぞれの者が被った損害につき、国家賠償法により、共同不法行為責任を負うことは明らかである。 5 原告A及びCの損害 原告らは、それぞれ前記被告らの処分に対しその取消を求めている。しかしながら、それらの行政処分が取り消されることにより、原告A及びCが被った損害が全て償われるものではない。原告Aらは、ブラジル連邦共和国において長年病魔と闘いながら、被爆者に対する援護措置から排除されて、何らの保障も受けることなく、実に厳しい生活を強いられてきた。その上、本件訴訟の提起まで強いられることとなった。 原告らが、被告らの不法行為によって被った精神的損害は、各原告につき、慰謝料として各金200万円、弁護士費用として各金20万円を下らない。 第8 結論 以上のとおり、被爆者健康手帳の交付申請書の提出先を「居住地の都道府県知事(広島市長、長崎市長を含む)」としていることを理由として、日本国外に居住する被爆者からの申請を却下するという取り扱いをすること、また、健康管理手当の支給申請書の提出先を「居住地の都道府県知事(広島市長、長崎市長を含む)」としていることを理由として、日本国外に居住する被爆者からの申請を却下するという取り扱いをすることは、憲法14条に違反し、且つ被爆者援護法に反し違法すること明らかである。 よって、本件の各処分は、取り消されなければならず、原告Aに対して、被爆者健康手帳が交付されなければならない。 また、被告国、被告広島県は、原告A及び原告Bに対して、それぞれ各自金220万円を支払うべき義務がある。 よって、原告らは、請求の趣旨に記載のとおりの判決を求めるため、本訴に及ぶ。 証 拠 方 法 追って、口頭弁論において提出する 添 付 書 類 1 訴訟委任状 2通 |