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  在外被爆者に関する検討会報告書(別紙)
   



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在外被爆者に関する検討会報告書 別紙( 17ページ分:以下にあります)



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(別紙)

目次

第1 検討の経緯

 1、検討会発足以前の経過略述・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

 2、厚生労働大臣からの要請趣旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

 3、検討に当たっての留意事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

 4、検討会開催の記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4


第2 外部関係者(主として在外被爆者、広島・長崎両市長ほか)の意見要約

 1、日本国政府に求める基本的姿勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

 2、在外被爆者が現在直面している問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

 3、在外被爆者援護に関連して、各機関が果たすべき役割・・・・・・・・・・・・・・・9


第3 委員によって示された主な論点と意見

 1、共通の認識・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

 2、在外被爆者に対して何らかの援護施策を講じる場合、法律上の根拠
   となり得る考え方に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

 3、具体的に行うべき施策に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

 4、在外被爆者に対する援護施策を進める上で、国、県市、民間団体等
   が果たすべき役割分担に関する検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15


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第1 検討の経緯

 1、検討会発足以前の経過略述

 原子爆弾被爆者の援護に関する法律(平成6年法律弟117号。以下「被
爆者援護法」という、)は、従前の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(昭
和32年法律第41号。以下「原爆医療法」という。)及び原子爆弾被爆者
に対する特別措置に関する法律(昭和43年法律第53号)(以下「原爆二
法」という。)を一本化し、施策の充実発展を図り、被爆者に対する保健、
医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を実施する目的で制定されたもので
ある。しかしその適用に関しては、原爆二法の当時から一貫して、国内に居
住又は現在する者のみを対象として制度が運用されてきた。
 このような施策については、原爆二法の当時から、韓国をはじめいくつか
の地域において、実際に原子爆弾に被曝しながらその後海外に居住すること
となったため本法律の適用を受け得ない者(以下「在外被爆者」という。)
を中心とした改善要請があり、漸次それぞれの地域の実情に応じて、健康保
持のための施策が講じられてきた。しかしながら、なお不十分であるとして、
訴訟を提起し判決によりこれを実現しようとする事例も生じている。
最近、かつて渡日して被爆者健康手帳の交付を受け、健康管理手当の支給
が開始された後に帰国した、在韓の在外被爆者が帰国後も当該手当の支給を
求めた訴えに対し、平成13年6月1日、大阪地方裁判所から判決が申し渡
された。その内容は、原告の主張を容認し、国及び大阪府にその支払を命じ
たものであり、同旨の訴えがなされた平成11年3月25日の広島地方裁判
所判決とは真っ向から異なる結論であったため、国は更に上級審の判断を求
めた。


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2、厚生労働大臣からの要請趣旨

 平成13年8月1日に開催された第1回検討会の席上、坂口厚生労働大臣
から「原子爆弾被爆者については、被爆者援護法に基づいてさまざまな施策
を実施しているが、海外に居住する被爆者については、被爆者援護法上十分
に位置付けられていない。このため、先般来、広島地裁及び大阪地裁から申
し渡された判決では、それぞれ、一つの法律に関して全く異なった方向から
の結論が出される結果となった。このような事態には国として何とか対応し
なければならないと思う。在外被爆者については、現在までにさまざまな施
策が講じられてきたが、いずれも被爆者援護法に基づく施策ではなかった。
被爆者援護法制定時の経緯を省みても、在外被爆者に関しては必ずしも十分
な議論がなされなかったのではないかと考え、今回、改めて委員各位にご議
論を願うものである。なお、在外被爆者も既に年齢を重ねていることを勘案
すれば、検討会として、年内にはひとつの方向性を出していただきたい」旨
の要請があり、これに基づき、検討を開始することとした。


3、検討に当たっての留意事項

  第1回検討会において、今後、検討を進める上での基本的認識に資するも
  のとして以下の諸点が事務局より確認的に説明された。

 (1)在外被爆者への援護策は、その対象者が日本国主権の及ばない地に居住
  するため、相手国政府との交渉を必要とすることがある。例えば、民間団
  体であれば自由に行うことのできる事業であっても、政府が行おうとする
  場合には相手国政府の了承が必要となる場合が考えられるなど、外交上一

  

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  定の制約ないしは限界がある。
   また、戦争処理や補償等の問題については、日本国との平和条約(昭和
  27年条約第5号。いわゆる「サンフランシスコ平和条約」)や財産及び
  請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との
  間の協定(昭和40年条約第27号。いわゆる「日韓請求権協定」)など
  に見られるとおり、関係国政府間において、これまで取決めを積み重ねて
  きたものであり、この問題の是非そのものをここでは論じない。

 (2)被爆者援護法(原爆医療法)の基本的性格が判示されたものとして、昭
  和53年の最高裁判所判決(以下「最高裁昭和53年判決(孫振斗判決)」
  という。)がある。また、現在、在外被爆者の問題について大阪高等裁判
  所や広島高等裁判所等で争訟中の事案がある。
  しかしながら、最高裁昭和53年判決(孫振斗判決)等これまでの司法
  判断の是非を論じることや、現在争訟中の事案を評価することは、検討会
  の開催の目的とは異なるものである。

 (3)原子爆弾の被害に対する措置と、戦争遂行主体としての国の責任の関係
  については、既に最高裁昭和53年判決(孫振斗判決)及び昭和55年の
  原爆被爆者対策基本問題懇談会における議論があり、これを踏まえて今日
  の被爆者援護法が成立している。


4、検討会開催の記録

 (1)第1回検討会(平成13年8月1日)

  委員の紹介及び座長の指名に続き、事務局から資料に基づき在外被爆者

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  の現状等につき説明が行われた.次いで坂口厚生労働大臣から検討の要請
  があり、それに関連して意見交換が行われた。また、年内には取りまとめ
  を目指すこと、第2回及び第3回検討会において関係者の意見を聴くこと
  とするなど、今後の議論の進め方の概要が決定された。

 (2)第2回検討会(平成13年9月4日)

   秋葉忠利氏(広島市長)、伊藤一長氏(長崎市長)及び袖井林二郎氏(法
  政大学名誉教授)から意見を聴いた。

 秋葉氏からは、「在外被爆者には、現在医療を必要としている者が多く、
原子爆弾の後遺症に対する周囲の無理解、放射線医療の専門家の不足や居
住地医療保険制度への加入が難しいこと等のため、日本国内の被爆者以上
に厳しい状況に置かれている。国家補償の精神に基づき国内外の区別無く
被爆者援護を行うべきである。当面、実現可能な手当の支給等の支援策か
ら実施していく必要がある。」等の意見が述べられた。伊藤氏は「在外被
爆者個々は、被曝した経緯がさまざまであり、また、現在置かれている状
況も多様である。在外被爆者の実態調査の実施、在外被爆者手当の創設、
及び長崎市が行っている医師の交流・研修や渡日治療の事業を、代わって
国により案施する等の措置を講じていただきたい。」等と発言した。また
袖井氏からは「在外被爆者の多くは、異文化への適応に苦労し、また、周
囲の無理解や健康面の不安といったさまざまな苦労を背負っている。厚生
省公衆衛生局長通知(昭和49年衛発第402号。以下「公衆衛生局長通
知」という。)を廃止し、国としての責任を償うために、在外被爆者にも
被爆者援護法を適用すべきである。核廃絶のためのスポークスマンたり得
る被爆者への手当はPRのための費用とも考えられる。」等の意見が発表
された。



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 (3)第3回検討会(平成13年10月4日)

   崔日出氏(元社団法人韓国原爆被害者協会会長)、倉本寛司氏(米国原
  爆被爆者協会名誉会長)及び森田隆氏(在ブラジル原爆被爆者協会会長)
  から意見を聴いた。

   崔氏は、「韓国の被爆者には、強制連行等の結果被曝した者が多い。ま
  た、韓国帰国後も被曝による被害について話すことが許されない社会状況
  であった。これらの人たちは、今まで十分な治療と援護を受けることがで
  きなかったため、今日、生存者の割合が、日本の被爆者に比べ低い。日本
  政府の拠出に基づく大韓赤十字社基金からの支援措置もあるが、医療保険
  制度外の負担も多く、経済的に困難な状況に置かれている者が多い。過去
  を清算する意味からも、在韓被爆者に対し、被爆者援護法を適用するべき
  である。また、韓国原爆被害者協会の会員は広島又は長崎で被爆者健康手
  帳を取得した者に限ることとしているが、健康面、経済面の問題により渡
  日・取得できない者がいるので、在韓国の日本大使館等に広島や長崎の担
  当者が来て被爆者健康手帳の審査・交付を行うことはできないか。」等と
  発言した。倉本氏からは「原子爆弾の投下が正しかったとされている米国
  で被爆者の救済を訴えることは難しい。米国では国民健康保険がなく、民
  間保険会社の保険も審査が厳しく保険料が高い。また、所得の低い在外被
  爆者も多い。どこに居住していようと被爆者であることには変わりないの
  で、救済措置に差別をつけるべきではない。米国では、被爆者全体の約4
  割が日本国籍を持っており、少なくともこの人たちは保護される権利があ
  る。人道的観点から、高齢化する被爆者に対し少しでも早く援護策を講ず
  べきである。手当の支給だけでもしてほしい。」等の意見が述べられた。

   また、森田氏は、「国策として南米に移住した被爆者には、目本国籍の者


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  が多い。日本国内の居住者と差別すべきではなく、公衆衛生局長通知を廃
  止し、被爆者援護法を適用すべきである。南米では一般に医療体制の整備
  が遅れており、医療保険の自己負担も高額で、十分な医療を受けることが
  できない。医療水準の高い病院から診療の申し出もあるが、実験扱いされ
  るおそれがあり、日本の専門医に治療を受けたいと考えている。南米では
  日本人医師派遣による健康診断を実施してもらっているが、その実施場所
  が遠く、受診できない者がいる。少なくともブラジルで二カ所程度は増や
  してほしい。」等と述べた。

 (4)第4回検討会(平成13年11月8日)

   森座長の指示に基づき、事務局が各委員の意見を聞き整理した資料「在
  外被爆者に関する論点の整理とこれに対する意見(メモ)」に沿って議論
  が行われた。
  また、次回検討会に先立って、検討会報告書の起草委員会を開くことと
  した。

 (5)報告書起草委員会(平成13年11月27日)

  報告書(案)の文案について議論が行われた。

 (6)第5回検討会(平成13年12月10日)

  起草委員会で作成した報告書(案)を基に、議論を深め、報告書の取り
  まとめを行った。

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第2 外部関係者(主として在外被爆者、広島・長崎両市長ほか)の意見要約

1、目本国政府に求める基本的姿勢

  以下のごとき三様の意見が述べられた。

 (1)「国家補償的性格」を有する現行被爆者援護法は、当然に在外被爆者に
  対しても適用されるべきであり、改めて特段の根拠づけを行う必要はない
  のではないか。

 (2)被爆者に対する援護施策は、戦争に起因する損害の補償として行われる
  べきものではないか。

 (3)在外被爆者に対する援護は、人道的見地から、国内の被爆者と同内容の
  施策が講じられるべきではないか。



2、在外被爆者が現在直面している問題

  この間題を要約すれば、以下の三点である。

 (1)国による医療制度や医療水準の違いなどにより、現地では原爆医療に対
する十分な対応が望めない。

 (2)渡日して手帳の交付を受けるとともに被爆者援護法に基づくさまざまな
  措置を利用したくとも、経済的事情などから実現困難な者がいる。

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 (3)外国では、原爆に対する歴史的評価や理解が日本とは異なっており、被
  爆者は精神的にも孤立している。
   なお、関係者からは併せて、在外被爆者に対しても被爆者援護法が適用
  されることによって、健康管理手当等の金銭給付が支給されることを期待
  する旨の発言があった。



3、在外被爆者援護に関連して、各機関が果たすべき役割

  以下のような要望が述べられた。

 (1)被爆者援護法にも規定されているように「国の責任」により施策を進め
  るべきである。在外被爆者に対して援護施策を講じる場合の費用負担につ
  いても、同様であってほしい。

 (2)都道府県(広島市及び長崎市を含む。以下「県市」という。)において
  は、独自に在外被爆者に対する援護施策を既に実施しており、これに対し
  て今後、国の支援を行うべきではないか。

 (3)国内の民間団体も県市と協力、連携して在外被爆者への支援活動を行っ
  ている。また、各国のいわゆる「在外被爆者の会」も健康診断事業への協
  力等を行っており、.これらの民間団体への支援が必要であろう。

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(参考)
現行被爆者援護法が在外被爆者に適用されない理由(訴訟継続中の事柄であること
から、被告国側の立場からの説明を整理したもの)

(1)法理論的な理由
 ・全額租税負担による社会保障給付は、社会連帯の考え方に基づき社会の構成員全
  員による相互扶助として営まれることから、特段の規定なくしては国外にまで適用
  できない。

 ・立法時の国会審議の過程において、海外居住者への適用を企図した修正案が否決
  されたことにより立法者意思が明確に示されており、また、昭和53年最高裁判決
  (孫振斗判決)において、「国内に現在する者である限りは」同法の適用が認めら
  れるとする司法判断が行われており、国内に限って適用されるものと類推される。

 ・金銭の給付など国外居住者でも利用できるもののみ被爆者援護法を適用すべきと
  の考えもあるが、被爆者援護施策は、被爆者の認定から、健康の保持、増進、福祉
  に至るまで総合的な施策として実施することにより初めて法の目的を実現すること
  が可能となるものであり、金銭的給付のみを行う等部分的適用を図ることは法の趣
  旨を大きく逸脱する。

(2)運用実務的な理由

 ・被爆者健康手帳の交付や各種給付の実施主体は、居住地又は現在地の都道府県知
  事が行うこととされており、手帳の交付とその管理、各種給付を誰がどのように実
  施するか規定されていない。

 ・医療機関の監督、健康診断に基づく指導等の実効を担保する仕組みがない。

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第3 委員によって示された主な論点と意見

1、共通の認識

 二度にわたって行われた関係者からの意見陳述(前記第2〕において明らか
にされた実態、並びに表明された意見及び提言を参考にしつつ、主な論点を
以下の三項目に整理し、委員間で論議した結果、次のような結論が得られた。
 人道上の見地からは、その現在の居住地によって援護の程度に差をみるこ
とは不合理であるというのが、各委員共通の考えである。よって、この際以
下に述べる考え方を参考として、何らかの施策を講ずべきである。

2、在外被爆者に対して何らかの援護施策を講じる場合、法律上の根拠となり
得る考え方に関する検討

(1)被爆者援護施策の基本的性格を理論的に整理して得られる考え方と論点

@被爆者援護施策を、適法な国の行為に伴う「損失補償」であると考え、
その下で放射線による健康障害という「特別な犠牲」についての「国の
責任」として援護施策を講じる。この人身の損失補償については、憲法
第13条の「生命に対する権利」に被爆者援護の国家補償的性格を併せ
総合した考えが根拠となり得る。
 ただし、この考えをもって現行の被爆者援護法を直接、在外被爆者に
対してまで適用する根拠とすることは難しいのではないかとの意見もあ
る。

A戦後補償についての国際法の基本的な考え方に沿った被爆者援護法の
適用についても考慮した。ただし、この考えは、いずれの立論を採る場
合においても、それを現行の被爆者援護法に反映させ、在外被爆者に対
して法を適用する根拠とすることは難しいと判断される。

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(参考)戦後補償についての国際法の基本的考え方に沿った立論

(1)いわゆるサンフランシスコ平和条約に示される日本国の米国に対する補償請求
権の放棄を根拠とする場合

・国際法の一般原則によれば、国際法上違法な戦争行為に起因する損害について
は、条約等に特別の規定がある場合を除いて個人は損害賠償を請求できず、これ
らの損害は被害国によって加害国に請求されるものである。その結果、被害国が
加害国から得た賠償金等を原資として、戦争被害、とくに虐待、強制労働等の特
殊な犠牲に関して金銭補償をした例はある。そのため、平和条約において被害国
が当該講求権を放棄した場合には、上記のような形で得られる可能性があった賠
償金が、被害国による放棄によって得られなかったとして放棄を行った被害国か
ら損失補償がなされるべきだという考え方がありうる。ただし、加害国の国内法
上個人の損害賠償権が発生したことが明らかではない場合は、賠償請求権を放
棄した目本政府による損失補償を考えることができないというのが最高裁判所の
判断である(最高裁昭和44年7月4日民集23巻8号1321頁)。なお、平
和条約による賠償請求権放棄を根拠として日本政府に補償責任を観念することが
できたとしても、日本国籍を有さない者についてはそもそも日本政府が放棄しう
る賠償請求権がない以上、日本政府には補償責任が生じないという問題点がある。

(2)戦争災害に関する国の結果責任をもって、その根拠とする場合

・昭和38年12月7日の東京地方裁判所判決(いわゆる「下田判決」)において、
「戦争に際して国は国民を保護する必要があり、戦争災害に対しては当然に結果
責任に基づく国家補償の問題が生じる」旨判示している。しかし、こうした考え
方に立ったとしても、日本国籍を有さない者に対しては日本政府は補償責任が生
じない。

(3)国際法を直接の根拠とする場合

・国際慣習法上、戦争被害、特に原子爆弾から生じた被害について、所属国等い
ずれかの国が直接補償すべきだという原則が成立していれば、そのことを根拠に
当該国の補償責任を観念することができる。いわゆる「シペリア長期抑留補償訴
訟」では、自国民捕虜補償原則が国際慣習法として成立しているとして裁判所に
提訴されたのはこのような考え方に基づいている(なお、平成9年3月13目最
高裁判所判決は訴えを最終的に退けた)。しかし、戦争被害、特に原子爆弾から
生じた被害について、所属国等いずれかの国が直接補償すべきだという国際慣習
法上の原則が成立しているとは認められない。


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B本施策を、その制度の成り立ちや実際の仕組みから考えると、放射線
による健康障害という「特殊の被害」に着目した社会保障制度と解する
ことができよう。社会保障制度は、原因行為の違法、適法を問わず、現
に援護を必要とする状態にある者を対象に行うものであり、国内に居住
する者の社会連帯、相互扶助の考え方を基に案施されるものである。こ
の場合、国内居住者が財源を負担する社会保障制度は、給付の対象者が
一般的には国内に限られているため、もし在外被爆者に対しても被爆者
援護法を適用しようとすれば、広く国民が納得できる合理的理由を提示
することが必要となる。

(2)上記の考え方に照らし、在外被爆者に対して現行の被爆者援護法を適用
しようとする場合の問題点及び課題

 被爆者援護法は医療の給付を基本とした施策体系であり、また、被爆
者援護法において、都道府県知事は、健康診断及びこれに基づく指導を
行い、さらに、医療が必要な者は、厚生労働大臣の指定した医療機関等
において必要な医療を受けることができることとされていることなどか
ら、医療体制をはじめさまざまに事情の異なる国々に居住する人々に全
く同様に本法を適用することはそもそも困難である。したがって、在外
被爆者に被爆者援護法を適用しようとする場合には、そのための特別の
規定を設けることが必要となる。その一例として、現行の制度では、国
外退去時の手続等の形式的な手続規定でさえ規定されていないなど在外
被爆者の存在が全く予定されておらず、現実に即応した何らかの規定整
備を必要とすることが挙げられる。


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他方、特別の規定を置いて国外にまで適用することとすれば、社会保
障という観点から説明することは難しく、国家補償という観点から説明
しなければならなくなるが、これは、何らかの形で戦争責任の議論に結
びつくものとなる。したがって、補償や責任とは別の観点から、救済を
行う方法を考える必要がある。


これらを総括すると、在外被爆者に関しては、今日まで日本国民全体が、
国内被爆者に比し人道上、その援護についてやや無関心であった感は否め
ない。現在の被爆者援護施策についてはなお完全でないとする意見はある
ものの、とにかく、国内被爆者と同様のものを在外被爆者に対しても及ぼ
すことが必要であるとの考えが表明された。現行法の下で、単にその解釈、
運用の如何によって実現しうるものであれ、新しい立法その他が必要なも
のであれ、できる限りの措置を講じることが必要である。


3、具体的に行うべき施策に関する検討

(1)一般的事項

@緊急の課題として、在外被爆者が渡日して、必要な原爆医療を受けら
れるような条件整備を図るべきである。とりわけ、経済的事惰で渡日が
困難な者等に対する配慮が必要である。

A渡日する在外被爆者に対しては、渡日前の受入れや手続の準備、滞在
中の目常生活支援、離日後のフォローアップや情報提供・相談等を体系
的に行う仕組みが必要となる。

B居住国における在外被爆者の健康保持のために、原爆医療に関する人
材養成や人材派遣等の国際交流(協力)についても、民間団体を通じて
実施する等の対応が必要である。

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(2)被爆者援護法による健康管理手当等の金銭給付

@健康管理手当は、健康診断や医療の給付と密接に関連するものであり、
これらと無関係に健康管理手当を支給することは、制度の趣旨から考え
て不適切である。

A国外に被爆者が居住する場合は、健康状態の確認が難しく、事務の適
正さが担保できない、との考えがある一方、「基金」のような制度によ
り居住国の実情、本人の経済的状況等に応じて何らかの金銭給付を行う
仕組みを講じるという考え方も示された。

(3)施策の法制的位置づけの問題

 これらの施策の実現に当たっては、在外被爆者に対する特別立法や被爆
者援護法一部改正など法令上の裏付けが必要ではないかとの意見が示され
た。また、必ずしも法令に基づかずに実施できる施策も考えられることか
ら、これらについては、速やかに実現を図るべきとの意見もあった。さら
に、日本国内に居住も現在もしていない者に対する被爆者健康手帳の取扱
いについて、その明確化が必要であるとの考えが示された。

4、在外被爆者に対する援護施策を進める上で、国、県市、民間団体等が果た
すぺき役割分担に関する検討

(1)被爆者援護施策では、法の国外適用の如何にかかわらず、被曝の事実の
確認やそれに基づく居住国の実情に応じた各種援護策の実施のために、被
爆者健康手帳の発行が最も重要であり、これが適正かつ実施可能な方法で
行われるように、国、県市等の役割分担を考えるべきである。具体的には、
例えば、民間団体が手帳取得の支援となる事業を行うこととし、県市は実
際の発行業務を行い、国は手帳取得のための渡日に係る費用負担というよ
うな役割分担をすることが考えられる。

(16ページ)

なお、国外においても被爆者健康手帳を発行し得る可能性についても議
論があったが、国外において手帳交付等の事務を行う場合、事務手続をど
のように行うか、実行可能な範囲はどこまでか等解決すべき具体的な問題.
も多く、今後の課題として提起された。

(2)既に実施されている又は予定されている県市の独自の在外被爆者援護施
策を国が支援して拡充することにより速やかな事業実施が期待できる。

(3)各国の実情に応じた個別の対応が必要となる金銭給付を行う場合には、
給付の性格に応じ、民間団体に委託して行わせる方法も考えられる。一方、
内外の民間団体との協力、連携は引き続き必要であるが、適正な事業実施
のためには、県市による指導、調整が不可欠であり、その意味では在外団
体の事業に対する直接的な支援には、検討しなければならない課題が多い。


 以上、現時点において委員間の意見に相違がある部分はあえて集約せず、そ
のまま取りまとめて示すことにより、報告に代えることとしたい。厚生労働省
におかれては、本検討会においてなされた論議を踏まえて適切かつ早急な施策
を実現されるよう強く要請するものである。
 終わりに、今回の検討に際し、貴重な意見を寄せていただいた関係者各位に
厚くお礼申し上げる。

(17ページ)

 
     在外被爆者に関する検討会名簿


  伊藤 千賀子 (財〕広島原爆障害者対策協議会健康管理・増進センター所長

  兼子 仁    東京都立大学名誉教授
  
  岸 洋人    読売新聞社解説部長
  
  小寺 彰    東京大学教授

  土山 秀夫  長崎大学名誉教授

  堀 勝洋    上智大学教授
 
 ○森 亘     日本医学会会長


                       (五十音順、○は座長)