中国新聞社 社説
在外被爆者 控訴 説得力ない国の論理
(2001年6月16日)
在外被爆者に被爆者援護法の適用を初めて認めた大阪地裁判決を不服として、国と大阪府が控訴した。国内に限った法の運用が、すべての被爆者を対象にした法の趣旨に背いていること、憲法(平等の原則)違反の恐れ、高齢化に即応する人道的救済の必要性・緊急性など、判決や私たちの指摘に、国はまともにこたえなかった。
一方で坂口力厚生労働相は援護法に在外被爆者の位置づけをする法改正の検討を進めると表明した。在外被爆者の援護明記を求める世論を盛り上げたい。
大阪地裁は、国が韓国人被爆者に支給していた健康管理手当を「海外居住者には適用しない」(一九七四年の厚生省通達)理由で帰国後に打ち切ったことを「法の趣旨に反する」などと断罪した。被爆者団体、広島市、法学者らが求めてきた控訴断念の願いが届かず遺憾だ。控訴の理由は、通達を支持した広島地裁判断があるなどと、これまでの主張の域を出ていない。援護法の理念を、どう解釈しているのか。
援護法の制定過程を、いま一度振り返りたい。同法の礎となった旧原爆医療法(五七年制定)は適用の対象を「国民」「国内」と明記しない異例の法律として誕生した。まだ米国の施政権下にあった沖縄に住む被爆者を置き去りにしないためである。その目的通り、沖縄には本土復帰(七二年)前の六六年から医療法が、各種手当を支給する旧被爆者特別措置法(六八年制定)も本土通りにそれぞれ適用されてきた。つまり、政府がこだわる「国内」を超えて治外法権の地にも法が及んだ実例だ。「居住地」の法解釈は、これと矛盾し初めから破綻(はたん)している。
旧二法を引き継いだ援護法に「海外除外」など適用条件の規定は一切ない。条文を素直に読めば、広島、長崎で被爆した人は国籍、人種、被爆後の居住地などを問わず、被害の程度に応じて等しく援護されることが明らかだ。「国の責任で援護対策を講じる」(前文)国家補償と国際法の性格を併せ持つ。在日外国人被爆者や海外からの渡日被爆治療も対象になったことが、その証明だ。「海外除外」は人道的問題にとどまらず、援護法違反である。
法の沖縄適用に込められた労苦、在外被爆者援護論議の歴史経過に精通した人は法務、厚生労働省の関係官僚の中にさえ少ない。こんな実態がゆがんだ法運用を生み、小泉純一郎首相らの判断を誤らせたのではないか。
在外被爆者は韓国など約五千人といわれ、広島市だけでも、この六年間、約二百人が帰国で各種手当を打ち切られた。援護の差別は明らかだ。控訴を取り下げ、生存中の法適用を急ぐ必要がある。国の言う法の見直しは在外被爆者を除外する恐れもはらんでいる。違法性の強い通達を即刻廃止し、国家補償と国際法的性格を強める法改正を促す運動が課題になった。
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