広島市長へのブラジル平和協会抗議・要請文


                        2011年7月8日
広島市長 松井一實 様

市長発言に抗議するとともに、お考えを改めて
いただくよう要請いたします。

        ブラジル被爆者平和協会   会長 森田 隆

 新聞のホームページで貴方様の発言を読ませていただき、驚きと、悲しみが私達ブラジルの被爆者の中に衝撃となって広がりました。早速会合を開き貴方様の発言に対し本意はどこにあるのか、問いただした方が良いのではないかとの意見が多くあり、こうして抗議と要請の文書をしたためました。
 色々な事情で外国に滞在している被爆者に対し、厚生省は402号通達を発出し、日本に在住する被爆者との差別行政を長年に渡り行ってきました。
 私達ブラジル在住の被爆者の多くは国の奨励で移住し、苦労を重ねながら1984年にやっと被爆者協会を作り、日本の被爆者と同等の「援護」を求めてきましたが、国が取った施策は2年に一度の医療相談だけでした。そして私達は其れから毎年のように日本に行き、なれない要請行動を起こしましたが、その間に多くの被爆者は何もされないまま病気をし、死んでいきました。そして日本にお住まいの多くの方々が、恵まれない在外被爆者に援護をと立ち上がって下さり、その方達のお陰で今日いくつかの援護を勝ち取って来ました。しかし私たちが最初に望んだ「医療援護」は、年間17万円の保健医療助成事業が有るのみで、これはご存知のように被爆者援護法の枠外で行なわれているもので、被爆者援護法に則ったものではありません。
 今回の貴方様の発言を聞いて、私達は疑念を覚えたのです。それは、日本から2年に一度の健診相談事業がブラジルで初めて行われた時、健診に同道された厚生省の課長補佐が「この2年に一度の健診事業さえしとけば、そのうち皆死んでしまうんだから」と言われたのですが、その気持ちが厚生労働省で働いておられた貴方様にも引き継がれているのではないかということです。
 被爆者援護法により与えられた権利を行使しようとしたら、くれくれ!と文句を言うといわれ、感謝の気持ちがないと申されています。死んだ人が一番かわいそうと言われましたが、生きて差別、健康、心身共におびえながらの人生ははかり知れないものがあります。又、助けようにも助けられなかった被爆者がその罪の意識を背負いながら、今まで生きてきた人に対して、真に酷な言葉だと!
 なぜ被爆者を保護する必要があったのか、本当に分かっておられますか?この被爆者援護法が出来たのは、戦後12年経って当時の方々が、それが本当に必要だと思い実行されたからです。今の福島も同じような例ではないでしょうか。援護の手を差しのべられずにはおられない状況です。広島、長崎の被爆者も同じなのです。過去の問題ではありません。
今回の貴方様の発言は世界で初めて原爆被害にあった、世界に平和を訴える立場にある市長の言葉としては到底許される言葉ではありません。
 ブラジル被爆者協会が出来て今日まで249名が会員になり、現在は約120名しか生存していなくて生存率が50%を切りました。平均年齢も77歳。2011年になり6月まで6名の被爆者が亡くなりました。其のうち2名が白血病、あと癌とかそれに類似する病気で死亡しています。死亡前にそれぞれ病院に入院して治療をしていますが、被爆者に与えられた保健医療助成事業の助成金では支払えない金額です。
 今も差別行政がつづいている援助を、日本の被爆者が受けているのと同等の援助(被爆者援護法に則った援護)にしてもらうために私達は権利としての行使を望んでいるわけで、貴方様が発言されたことに対し異議を申しあげます。
 被爆者はどこに住んでいようと被爆者です。今までの厚生労働省が在外被爆者におこなってきた在外被爆者に対する血も涙もない行為を貴方様は厚生労働省職員として身をもって知っておられると思いますし、被爆2世として広島、長崎の被爆者の現状は良く御存じだと思います。それを踏まえたうえでの発言なら、なおさら絶対に許せません。
広島、長崎の被爆者は歴史の生き証人として生き続けてもらわなければならないのに、貴方の発言はただ銭がかかるからというだけの狭い了見から出ているように思います。広島の市長は世界の広島市長です。そのことを肝に銘じて、大きな心と深い見識を持って、世界平和の第一線に立ってもらわねばなりません。お考えを改めていただくよう強く要請いたします。
貴方様は、新聞などの報道によりますと、騒がせたことについてはお詫びするが発言そのものは撤回しないと言われているようですが、そのお気持が変わらないのであれば、どうか今年8月6日の広島市の被爆者を偲ぶ慰霊祭において、世界に向けての貴方様の平和宣言は取りやめて頂きたいと考えます。どのような美事麗句を述べられようと、心が言葉に込められていないと思うからです。
私達は長い年月をかけて、厚生労働省などを被告にした裁判を30回以上もしながら、在外被爆者の権利を少しずつ勝ち取って来ました。この間厚生労働省に多くの要望書を提出しましたが、その返事を頂いたことは有りません。今回のこの手紙も郵送では時間がかかりますので、在外の被爆者支援の皆様に添付ファイルで送り、届けてもらいます。
今後、本当に広島、長崎の被爆者、福島原発の被ばく者、世界30数カ国に在住している在外被爆者の生きる希望を踏みにじるような発言をされることが無いようにお願い致します。
ぜひとも貴方様のお考えをお聞かせいただくようお願いいたします。
     (連絡先)  住所  Av.Jabaquara 1744-Saude Sao Paulo-SP Brasil
          協会名 ASSOCIACAO HIBACUSHA BRASIL PELA PAZ
          電話 055-11-2577-0328 Fax 055-11-5581-1221
          e‐mail : hibakushabrasil(アットマーク)gmail.com


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