在外被爆者訴訟 手当3年分認める 2005年12月21日「朝日新聞」長崎版 「行政の運用の誤りを理由に時効は認められない」とする司法判断を、支援者らは「在外被爆者の救済は大きく前進した」と評価した。在韓被爆者の故・崔季K(チェ・ゲ・チョル)さんが過去24年分の健康管理手当の支給を求めた訴訟で、長崎地裁は20日、崔さんが過去に認定を受けた約3年分の手当の支給を認めた。訴訟を通じて少しずつ権利を勝ち取ってきた在外被爆者問題について国に抜本的解決を迫るきっかけともなりそうだ。 判決後、原告の支援者らが記者会見し、最大の争点だった「時効が成立するか」という点で主張が認められたことの意義を強調した。在外被爆者支援連絡会の共同代表、平野伸人さん(58)は「国が在外被爆者を放置してきた過去の責任を厳しく問う画期的な判決。裁判の目的を果たすことができ、完全勝訴といっていい」と話した。 韓国・釜山で判決を待った崔さんの妻の白楽任(ペク・ラク・イム)さん(77)は、韓国原爆被害者協会の車貞述(チャー・ジョン・スル)さん(76)から電話で判決の内容を聞き「お金の問題ではなく、とにかくうれしい」と話したという。 一方、長崎市の出口静夫・原爆被爆対策部長は「個別の事情も考慮すべきだが、(時効を認めた)04年2月の福岡高裁判決と相反する内容で、方向性を一つにまとめる必要がある」と述べた。 判決が時効の成立を認めなかったのは、03年2月に廃止された厚生省402号通達が「国外に出た被爆者には法の適用はない」と定めていたため、崔さんは出国を理由に手当の支給を打ち切られたことをやむを得ないと受け止め、司法的救済を訴えることが困難だった、と判断したからだ。 判決はこの通達を「誤った法解釈に基づく行政」とし「崔さんの権利行使に重大な障害をもたらした国と、その国から事務を委任されていた長崎市が時効を主張することは信義則に違反する」と厳しく指摘。また、過去にさかのぼって多くの者が権利救済を求めれば混乱するという被告の主張も、「信義則の適用を否定する理由にはならない」と退けた。 在外被爆者問題に詳しい田村和之・龍谷大法科大学院教授は判決について「間違った行政を棚に上げて時効を主張するのはフェアではない、という市民感覚に沿った優れた判決」と評価する。 時効を巡っては、日本人の被爆者が海外滞在中の健康管理手当を求めた訴訟で、福岡高裁が04年2月、時効を理由に訴えを却下(原告は最高裁に上告)。在ブラジル被爆者訴訟でも広島地裁が04年10月、時効の成立を認めた。一方、韓国人の元徴用工が国などを訴えた裁判では今年1月、広島高裁が時効は認めたものの「誤った法解釈で精神的苦痛を与えた」として損害賠償を命じた。 田村教授は「今まで、個別の事案を問いながら少しずつ風穴を開けてきたが、被爆者手帳の有無や過去の受給歴にかかわらず海外の被爆者を全面的に救済する特別立法を求めるなど、支援の方向性も考える時期に来ている」と話した。 (写真)判決後、地裁前で勝訴の報告をする支援者ら |