HOME


                                              2004年10月4日

        崔季澈裁判長崎地裁判決(2004.9.28)について

                                    在ブラジル・在アメリカ被爆者裁判を支援する会

                                          代表世話人  田 村 和 之

 1.判決は、原告の完勝であり、被告(形の上では長崎市長、実質的には厚生労働省)にとっては「惨敗」といえるものである。被告側の言い分はことごとく退けられている。もはや被告側にいうべき理屈はないはずである。被告は控訴せず、直ちに判決に従うべきである。また、広島地裁で争われている在アメリカ被爆者裁判についても原告勝訴が予想されるところであり、被告の広島市長は判決をまつことなく、在アメリカ被爆者からの手当等の申請に対する却下処分を取り消すべきである。

 2.判決は、被爆者援護法は社会保障と国家補償の性格を併有する「複合的性格」の法律であり、さらに「人道目的の立法」であるとし、このような観点からみれば、同法1条の「被爆者」である以上、在外被爆者も同法の定める「総合的な援護対策の対象に当然含まれる」から、在外被爆者が同法27条1項の定める健康管理手当の支給要件に該当するのに、同手当を「事実上受給することが不能であるといった事態を招くことは法の趣旨に反するというべきである」「在外被爆者の中には、被爆により被った障害の程度やその後の高齢化により、来日して法の定める各種申請手続をするのが不可能ないし極めて困難な者が存在することは容易に推測されるところ、このように特に援護の必要性の高い被爆者について、被爆により健康被害を被った者の救済を目的とする法が、その援護を全く想定していないということは考えられない」とし、被爆者援護法27条2項の「『都道府県知事』は、必ずしも『その居住地の都道府県知事』に限定されるものではない」との判断を示し、そのうえで、判決は被告の主張(申請審査の適正の確保の必要性など)をすべて退けている。

 そして、判決は、「法の目的に照らせば、同法は、来日して申請手続を行うことが不可能ないし極めて困難な在外被爆者に対しても援護を行うことを想定している……にもかかわらず、施行規則52条1項は、これらの在外被爆者が申請手続を行う場合の例外規定を設けていない」と指摘し、このようなことは被爆者援護法に反すると述べる。

 結論として、判決は、来日が不可能ないし極めて困難な在外被爆者に対して、来日しなければ手当の申請はできないとすることは違法であり、この限りで施行規則52条1項により申請書の提出先を「居住地の都道府県知事」と指定しているのは違法・無効であるとし、来日して申請することが不可能ないし極めて困難であるか否かについて「何らの調査・確認もせず」、国外から申請したことを理由に行った却下処分は違法であるとした。

 3.判決は、来日が不可能ないし極めて困難な在外被爆者が、国外から申請手続を行うことができる旨の「例外規定」を施行規則に用意していないのは違法であるといっている。ということは、郭貴勲裁判大阪高裁判決に従って2003年3月に被爆者援護法の施行令と施行規則が改正された際に、在外被爆者が国外の居住地から手当などの申請を行うことができる旨の手続規定が定められるべきであったということを意味する。これを怠った政府・厚生労働省の責任は大きい。

 4.敗訴しなければ長年行ってきた行政のあり方を変更しないというのが、この間の厚生労働省の態度であった。その敗訴した郭判決の意味を十分に受け止めず、判決が言ったことの限りでしか政省令を改めなかった結果、この度またも同省は敗訴した。同省はこのことを銘記すべきである。

現在、厚生労働省に求められていることは、敗訴した限りで施策を改めるのでなく、全面的に在外被爆者を被爆者援護法の対象にする姿勢に転換することである。そうせずに、この度敗訴した健康管理手当の申請手続だけを改めるといった、その場逃れの対応をとるとすれば、私たちは、次の裁判を考えなければならないことになる。その用意はあるが、新たに裁判をするとなれば、すぐに1年、2年の時間が経過する。その間に何人の在外被爆者が亡くなることであろうか。

 5.判決は、来日が可能な在外被爆者については来日して国内居住地・現在地からの申請を求めてもよいといっているように読める。しかし、このような考え方は妥当とはいえない。

 もし来日が可能か否かで、申請手続を国外からとることができるかどうかを区別するとすれば、在外被爆者は申請書の提出にあたり、来日困難である旨を明らかにしなければならないことになる。いろいろの場合を想定すれば、これは在外被爆者に大きな困難と負担を課すことになる。申請という行政手続の入り口で、申請者に多大な負担を負わせることは到底適切とはいえない。長年放置されてきた高齢の在外被爆者に、難しく負担の大きい手続を行わせることは、結局、申請を躊躇させることになってしまう。

 私たちは、一切の条件なしに在外被爆者が被爆者援護法に基づく各種の申請を行うことができるように関係の法令を改めることを強く要望する。