長崎市で被爆した元高校教諭広瀬方人さん(73)が、出国を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当を打ち切られたのは不当として、国と市に未払い手当の支給などを求めた訴訟の判決が19日、長崎地裁であった。川久保政徳裁判長は、国に未払い手当約33万円の支払いを命じた。
韓国人男性が原告となった在外被爆者訴訟で、「被爆者はどこにいても被爆者」と認定した昨年12月の大阪高裁、今年2月の福岡高裁(最高裁に上告中)判決に続く原告勝訴となった。
広瀬さんは日本語教師として中国に滞在していた際に、94年10月から10カ月間の手当約33万円を打ち切られ、01年9月に提訴した。国と市は、会計法や地方自治法を基に、「支給時期から5年以内」とされる有効期限を過ぎて提訴したと主張し、時効も争点となっていた。この日の判決は「時効の主張は権利の乱用として許されない」と判断し、広瀬さんの訴えを認めた。
大阪府に支払いを命じた大阪高裁判決で、国側は上告を断念。政令を改め、今月から海外に住む被爆者にも手当の支給を可能にした。しかし、未払い分は過去5年に限定したことから、韓国や米国などの被爆者団体から批判が出ている。
ほかに、韓国人の李在錫(イジェソク)さん(70)が訴えた裁判の判決が20日、大阪地裁で言い渡される。ブラジル在住の被爆者10人の裁判は4月、広島地裁で和解協議が始まる。
広島、長崎の被爆者は被爆者援護法に基づき、各都道府県などへの申請で被爆者健康手帳を交付され、医療費の補助や各種手当などが支給される。
長崎市で被爆した元高校教諭広瀬方人さん(73)が出国を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当を打ち切られたのは不当として、国や市などを相手に未払い手当の支給などを求めた訴訟の判決が19日、長崎地裁であった。川久保政徳裁判長は請求が有効期限(時効)を過ぎているとの国側主張について「権利の乱用で許されない」と退け、未払い手当約33万円の支払いを国に命じた。
在外被爆者訴訟では昨年12月、大阪高裁が大阪府に未払い手当の支払いを命じた。国は政令を改めて今月から海外に住む被爆者にも手当の支給を可能にしたが、時効を理由に未払い分は過去5年に限定。韓国や米国などの被爆者団体から批判が出ていた。
広瀬さんは日本語教師として中国に滞在していた際、94年10月から10カ月間の手当を打ち切られ、01年9月に提訴した。国は会計法などを基に「支給時期から5年以内に提訴しなかった」などと反論した。
判決は「(出国により被爆者の地位を失うとする)行政解釈が在外被爆者の請求権の行使を妨げた」と指摘。支払い義務については長崎市は国の機関委任事務として管理したに過ぎず、国に支払い義務があるとした。国が上告した今年2月の福岡高裁判決と同様、大阪高裁判決と異なる判断を示した。
さらに判決は政令の改正後も医療費の補助など日本と海外で異なる被爆者対策について「実施されることが望ましい」との見解を示した。
判決について厚生労働省健康局は「判決を十分検討した上で今後の対応を決めたい」との談話を出した。
在外被爆者訴訟では、韓国の李在錫(イ・ジェソク)さん(70)が訴えた裁判の判決が20日、大阪地裁で言い渡される。ブラジル在住の被爆者10人の裁判は4月、広島地裁で和解協議がある。
「時効」退け原告勝訴 在外被爆者・広瀬さん訴訟 長崎新聞 ’03.3.20
出国を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当を打ち切ったのは違法として、長崎市若草町の元教員、広瀬方人さん(73)が、国と長崎市などを相手に受給資格の確認などを求めた訴訟の判決が十九日、長崎地裁であり、川久保政徳裁判長は、広瀬さんの受給資格を認め、国に未支給分の手当三十三万円の支払いを命じた。
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焦点となった受給請求権の消滅時効について、国は会計法上の時効(五年間)を迎えていると主張したが、判決では「権利の乱用として許されない」と退けた。
国は昨年十二月、在外被爆者にも手当を支給するとする一方、未支給分の支払いは過去五年分と限定した。こうした国の対応の見直しを迫る内容といえそうだ。
判決理由で川久保裁判長は「出国しても被爆者の地位を失わない」との従来の司法判断を踏襲。広瀬さんが中国滞在中に受け取った手当五十七万円についても、返還義務はないとした。
在外被爆者に被爆者援護法を適用しない根拠となった旧厚生省通達については「そのことが主たる要因となって在外被爆者の権利行使が妨げられていた」と指摘。国か自治体か司法判断が分かれている手当の支給義務は「国が負う」との判断を示した。
広瀬さんは一九四五年八月、長崎市で被爆。九四年夏から日本語講師として中国の大学に赴任。市に転出を届け出たところ、手当計三十三万円が不支給になった。在外被爆者問題が浮上した二〇〇一年九月、提訴した。
在外被爆者訴訟では、昨年十二月、大阪高裁で言い渡された韓国人被爆者、郭貴勲さんの勝訴が確定。今年二月には、長崎で被爆した韓国人の李康寧さんが福岡高裁で勝訴、双方が上告している。
伊藤一長長崎市長の話 判決の具体的内容を確認しておらず、コメントを控えたい。
仁木壮厚生労働省健康局総務課長の話 具体的なコメントは差し控えたいが、今後の対応は判決内容を十分検討の上、関係省庁と協議して決定する。
在外被爆者・広瀬さん訴訟で原告勝訴 長崎新聞 ’3.3.20
広瀬さん訴訟あす判決 長崎新聞 ’03.02.19
出国を理由に被爆者援護法に基づく健康管理手当の支給が打ち切られたのは違法として、長崎市若草町の元教員、広瀬方人さん(73)が国と長崎市側に受給資格の確認などを求めた訴訟の判決が十九日、長崎地裁で言い渡される。
一連の在外被爆者訴訟の判決では、出国しても被爆者の資格は失わず「被爆者はどこにいても被爆者」という司法判断が示された。このため、手当支給義務は国、市のどちらにあるかという「責任論」と、五年以上前の手当請求が認められるかどうかという法律上の「時効」の問題について、裁判所がどう判断するかが焦点となる。
訴えでは、広瀬さんは一九四五年、長崎市内で被爆。九四年夏から日本語講師として中国の大学に赴任し、市に転出を届け出たところ、健康管理手当が不支給になった。
手当支給義務について、韓国人男性の訴訟の大阪高裁判決は「大阪府」とし、福岡高裁判決は「国」と判断が分かれた。国側は福岡高裁判決だけを不服として上告。広瀬さん側は「国、市いずれも義務を負う」と主張している。
時効については、国が「九四年に出国した広瀬さんの手当請求権は会計法上、既に時効消滅した」と主張。広瀬さん側は「あいまいな法運用の中で時効は発生しない」と反論した。
外国に住む被爆者に、被爆者援護法に基づく健康管理手当の受給資格を認めた大阪高裁判決が昨年末確定し、在外被爆者問題の解決へ道が開けたかに見えたが、長崎などの同種訴訟四件の原告は訴訟継続を決めた。争点は、国側が認めない国家賠償と手当支給期限の時効。原告らは二―三月、立て続けに予定される判決を、期待と不安を抱えて待つ。 (報道部・高比良由紀)
韓国人元徴用工・李康寧さん 「国の姿勢ただす」
大阪高裁判決を受け、厚生労働省は、日本出国を理由に同手当を打ち切られた韓国人元徴用工、李康寧さん(75)に対し、裁判所を通じ、求められている手当支給を申し入れる方針。
しかし、李さんは二月七日に福岡高裁で言い渡される控訴審判決を待つ。国家賠償を求めた部分を、国側は「故意でも違法でもない」として、争う姿勢を崩していないからだ。李さんは「手当を払えば済む問題ではない。国は敗訴を認め、在外被爆者に謝罪することが最後のけじめ」と話す。
長崎市の元高校教諭、広瀬方人さん(72)の訴訟では、手当支給に加え、支給時期に絡む「時効」が問題。大阪高裁判決を受けた国の新たな方針では、過去五年にさかのぼって手当を支給するが、中国に滞在した一九九四年夏から一年間の手当返還を求める広瀬さんの場合、「既に時効が成立しているため、支給しない」(同省健康局)。
広瀬さんは「時効が発生する起点はいつなのか、未解決。国家賠償も私だけではなく、中国人強制連行など戦後処理の本質的問題にかかわってくる。これらの問題を突き崩す契機になれば逆に本望だ」と話す。
李さんと広瀬さんが訴訟を続けるのは、手当支給が在外被爆者すべての救済につながらず、海外での手帳取得ができないなど多くの課題を残しているからだ。
在外被爆者は世界三十四カ国、五千人を超す。その半数近い約二千百五十人が加入する韓国原爆被害者協会によると、手帳取得者は千人足らず。年老いた被爆者が来日するのは困難にもかかわらず、住んでいる土地での手帳取得や医療援助の道は依然、閉ざされている。
しかし同局は、海外での手帳取得、更新を可能とする法改正の考えもなく、来日を前提とした支援事業活用を呼び掛ける。
八日、長崎市を訪れた李さんは「来日できる人、できない人、手帳を持つ人、持たない人。問題は複雑、日韓両政府が方法を整理するべきだ」と変わらぬ窮状を訴えた。「私の判決で国の後ろ向きな姿勢をただす」。長年の闘いは正念場を迎えている。