朝日新聞1997年3月8日朝刊」より
外国人被爆者への健康管理手当が日本を離れると支給されなくなることにつ いて、韓国在住の被爆者沈戴烈さん(70)が国に、行政不服審査法に基づく再 審査請求で、初めての口頭意見陳述が七日、県庁であった。厚生省の担当者に対 し、沈さんは被爆体験を交えて語り、在外被爆者にも被爆者援護法を適用するよ う訴えた。
意見陳述は非公開で、午前十一時から約一時間二十分開かれ、沈さんのほか 代理人の支援者や弁護士らも陳述した。厚生省側は陳述内容をテープに録音した という。
陳述後会見した沈さんらによると、沈さんは被爆した際、運輸会社の運転手 として救援活動に携わった体験などを話した。同席した「韓国の原爆被害者を救 援する市民の会」の豊永恵三郎・広島支部長が在韓被爆者の置かれている状況な どについて説明。
代理人の弁護士は「一度被爆者となった限り、国外に居住地を移したとして も被爆者の地位に変更があるわけではなく、国外との理由のみで健康管理手当を 失権させる取り扱いは違法」とする意見書を読んだ。
沈さんは陳述後の会見で、「願っているのは最小限度の手当を受けることだ けで、それ以上に要求するものはない。私たちも日本国内の被爆者と変わること のない原爆被害者なのに、不当に差別されている。死ぬ前に訴えを解決してほし い」と話した。
一方、厚生省保健医療局企画課の北波孝・企画法令係長は「論点は裁決書の 中で明らかにしたい」と話した。
沈さんは同様の内容を県に審査請求したが却下され、国に対して昨年八月、 再審査請求した。
被爆者援護法に国籍や居住地に関する制限はないが旧原爆措置法の時代の一 九七四年、「日本国の領域を越えて居住地を移した被爆者には同法の適用はない と解される」との厚生省局長通達が出され、帰国した被爆者に援護法も適用され ない根拠とされている。